え~、キース・リチャーズが歌う≪ビフォー・ゼイ・メイク・ミー・ラン≫のお話、どこまで進んでいましたっけ?
……おそらくはまだトロント裁判云々というほんの導入部程度だったのではないかなと。
この辺の記憶が定かでなく、また話が行き詰まっているのには深いワケがある。何しろ、ようやくというべきか、去る12月4日、日本全国1千万人のストーンズ党が待ちわびていた来日公演の正式発表が行なわれたのだから、感激と興奮でアタマ真っ白、思い回していた諸々のことが一瞬でスッ飛んでしまったのも致し方ないところ。師走の忙しないムードと相俟って、思考回路は半ば混線、メチャクチャだ。
しかし、ここは一旦息を整え冷静になって、≪ビフォー・ゼイ・メイク・ミー・ラン≫のこと、そして8年ぶりとなる2014年の来日公演に対する雑感などを綴っていきたく思っている。
まずは興奮冷めやらぬうちに、2月26日(水)、3月4日(火)、6日(木)という日程で東京ドームで行なわれる「14 On Fire Japan Tour」について。どうやら情報によれば、3日間ともにスペシャル・ゲストとしてミック・テイラーが登場するというのだが、果たしてこれを素直に喜んでいいものなのかと感じているのは、きっと僕だけではないだろう。
1969年、ブライアン・ジョーンズの後任ギタリストとして、20歳の若さでストーンズに入団したミック・テイラー。いわゆる70年代、バンドの黄金期を支えたメンバーだ。
前回採り上げた映像版『“スウィート・サマー・サン” ストーンズ・ライヴ・イン・ロンドン・ハイド・パーク 2013』でも、≪ミッドナイト・ランブラー≫で変わらず達者なギター・ソロを披露していたテイラー。まぁ、“約束の地”ハイドパークでのステージということで、この演出は大いに頷ける。グラストンベリー・フェスティヴァルでのゲスト参加にしても、地元イギリス最大級の音楽祭りということで、アリだろう。
そもそも2012年11月にスタートした50周年ツアーにもテイラーは帯同。要所で顔を出し、往年のストーンズ・ファンを狂喜させていたのは記憶に新しいところ。
転がり続けてきた半世紀の歴史を総括、または絶頂期のサウンドを懐古的にサマライズしようと考えたバンド側の意図によってこのような演出に着地したのであろう。
……が、すくなくとも今回のジャパン・ツアーにミック・テイラーのゲスト参加は必要ない。これじゃあただの“同窓会”ではないか、というのが僕の結論。ステージ、客席ふくめて、そんな同窓会ムードが蔓延した巨大ロック・コンサート……想像しただけでもゾッとする。世界的に前例のない少子高齢化時代を迎えたわが国のある種懸念すべき社会状況を、エンターテイメントを通じて突きつけられるなんて……。
露骨に比較することじゃないが、去る11月に行われたポール・マッカートニーの来日公演には、20~30代の若者たちの姿も多かった。ビートルズ楽曲で老若男女が手を取り合って楽しんでいる光景は、まるでSMAPのコンサートにでも居合わせているかのようなバリアフリー感覚さえ覚え、ベテラン外タレ・コンサートの会場につきまとう“いかにも”な敷居の高さはなかったと記憶している。実際、6年ぶりの新作『New』にしても、オールドタイマーのポジションに成り下がらず歩みつづけることに挑んだ、その攻撃的で実験的な側面が新しいリスナーの獲得に一役も二役も買っているという。なんとも健全な典型話ではないだろうか。
話をストーンズに戻すが、つまりミック・テイラーが在籍していた彼らの70年代絶頂期をプレイバックする演出、これをひとつの“ウリ”にするショーというのは、現代日本における若者の「洋楽離れ」という事情を踏まえても、そこに相当な違和感が残るということだ。
転がり続けている者が、束の間過去を振り返り懐かしむことはしばしばだが、しかしそれを誇大気味に可視化して具現化することは、何かを失うことになりかねないのではないだろうか。
73年の初来日中止に対する謝罪の意も込めて、というキレイごとでもなければ、45年前のハイドパークのあの興奮をはるか極東で、というサービス精神からくるものでもない(ように思える)。口は悪いが、これではテイラーは単なる客寄せガジェットでしかない。もちろんこれは、仮にゲストがビル・ワイマンだった場合にも同じことが言えるだろう。まぁフォローするわけではないが、これが90年代の来日公演であれば、また受け止める側の心境も違っただろうが。いずれにせよ、「ゲストなんかいらないから。なんだったら4人で気軽においで」というのがすくなくとも僕の本音である。
何歩か譲って、ミック・テイラーの登場は良しとして、さて日本側はこのジャパン・ツアーを最終的にどのようなものに“結晶化”していくのであろうか。非常に気になるところだ。
莫大な資本の動き、あるいはストーンズ・ピラミッドのヒエラルキー・ポジションといった越えねばならない諸々のハードルはこの際おいといて、ここが国内ユニバーサルミュージックジャパンの意気と粋の見せどころになるのはたしかだろう。
そして結論はひとつ。ジャパン・エクスクルーシヴのライヴ盤を制作するのが僕らの理想であり、最高の着地である。「偉大なるライヴ2014」と思わせぶりに銘打ってもいいし、クールジャパンを体現した新しいストーンズの見せ方を提案してもらってもいい。とにかく、彼らがロックのケモノ道を傷つき歩み、対価として手に入れたありえない規模のセレブ道を歩んでいる瞬間をしっかりと日本ならではの切り口で記録しておいてほしいもの。
また、旧東芝EMIスタジオ・セッションを収録した『ストリップド』のような座組みで“愛のある”国内レコーディングを画策してもらっても尚よし。しかもそこにミック・テイラーが参加し、≪スウェイ≫、≪ヴェンチレイター・ブルース≫、≪ダンシング・ウィズ・ミスターD≫……いやいやピッカピカの新曲なんかを気張って弾き倒してくれるのであれば、すべてがまずまず丸く収まりそうな気配がするのだが、いかがだろうか?[次回12/30(月)更新予定]