後を絶たない児童虐待。私たちは、幼い命が失われたと聞けば憤り、寸前で救い出されれば胸をなでおろす。だが、命をつないだ子のその後に思いを巡らせることはまずない。虐待の現場から救い出された子は、どのような人生を送っているのか。5人の「その後」を丹念に追ったのが本書だ。
 5歳でファミリーホームにやって来た雅人くんは無表情。一言もしゃべらず、束ねたカーテンに隠れてしまう。小学6年生の明日香ちゃんは自分を虐待した母の元に戻ることを希(こいねが)い、「奴隷でもいいから、帰りたい」と訴える。それぞれに壮絶な人生だが、目を背けず読み進められるのは、虐待された子を引き取った大人たちの献身的なまでの朗らかさと、著者の淡々とした筆致の故か。
 本書は週刊朝日での計8回の連載がもとになっている。全面的に再取材した作品は今年度の開高健ノンフィクション賞を受賞した。
 虐待がいかに深く、長く、子どもの心に傷を残すのか。そして、再生にはどれほどのエネルギーが必要になるのか。そのことを痛感させられる1冊だ。

週刊朝日 2013年12月27日号