「思想を鍛える一〇〇〇冊」という副題のついた佐高信+佐藤優の対談集『世界と闘う「読書術」』は名言奇言の宝庫である。特におもしろいのはこぼれ話的な雑談の部分。
たとえば〈社長あるいは専務や常務、部長など要職にある人に『巨人の星』のファンが多い企業はちょっと要注意なんですよ〉(佐藤)。〈人知を超えたところに何かあると思いたがるという〉(佐高)。〈会社が危機になったとき、思い込みと試練で物事を解決しようという人たちがいますよね〉(佐藤)。〈大リーグボール養成ギプス? とか?〉(佐高)。
これは戦後、GHQが抹殺した『小説日米戦争未来記』という1920年の本の話。数多く出版された〈この頃の日米戦争物は結果的に、読者にそんな気分を刷り込んだんじゃないかと思うんです〉(佐藤)。人々の戦意昂揚の陰にそんな罪深い本があったとは!
あるいはヒトラーは読書家だったという話。〈哲学書とか、そういうのもかなり読んでいる?〉(佐高)。〈二級哲学書、通俗書をよく読んでいます〉(佐藤)。〈「すぐわかる、誰でもわかる!」とか〉(佐高)。〈そういう感じです〉(佐藤)。ああ、ねえ。
かと思えば〈丸山眞男の雰囲気というのは(略)今の感じだと池上彰さんに近いと思うんです〉(佐藤)なんていっちゃったり、首相のことも話題に上ったり。〈安倍晋三がNHKの大河ドラマの「八重の桜」を見て感激しているっていうんです。(略)会津と長州は天敵だという近代史の常識を安倍は全然知らないんだって〉(佐高)。〈きっとそういう歴史にあまり関心がない人なんですね〉(佐藤)。まさかホントか?
かくのごとく博覧強記な2人だが、文学を語る段ではやや失速。〈小説を読まない左翼が共産党なんだよね〉(佐高)。〈そう思います〉(佐藤)。といいつつ話題の中心は妙な方向に傾いていき、必読書リストには遠藤周作が10冊、渡辺淳一が6冊。
こういうのも合わせての1000冊だから必読書は話半分ってことで。
※週刊朝日 2013年12月27日号