『デッドマン』[CD]ニール・ヤング
『デッドマン』[CD]ニール・ヤング
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『デッドマン』[DVD] 監督:ジム・ジャームッシュ 出演:ジョニー・デップ
『デッドマン』[DVD] 監督:ジム・ジャームッシュ 出演:ジョニー・デップ

 自ら製作に取り組んだ作品は別にするとして、ニール・ヤングは過去に一度だけ、映画のサウンドトラックを全面的に手がけたことがある(1980年の『ホエア・ザ・バッファロー・ローム』と94年の『フィラデルフィア』は一部参加)。95年公開、ジム・ジャームッシュ監督の『デッド・マン』だ。翌年2月発表の同名アルバムは“from and inspired by”と明記されていて、厳密な意味でのサウンドトラック・アルバムではないのだが、そのカルト的な名画と、ジャームッシュとの信頼関係から生まれたものである。ジャケットには主演したジョニー・デップの写真が使われた。

 ジャームッシュは『デッド・マン』の脚本を練っていたとき、ずっとニールの音楽を聴いていたという。そして彼は、粗編集が終わった段階で、まったく当てがなかったにもかかわらず、そのテープをニールに送り、音楽制作を打診した。ちょうどロックンロール・ホール・オブ・フェイムのパーティに出席したころだと思うのだが、彼は快諾し、パール・ジャムとのレコーディングが終わるとすぐ、最小限の楽器類だけを持ってサンフランシスコに向かったのだった。

 映画の舞台は19世紀後半のアメリカ。デップ演じるウィリアム・ブレイクは経理の仕事を得て、オハイオ州から西部の開拓地へと向かう。だが、約束されていた仕事はすでになく、偶然の重なりのなかで胸に弾を受けた彼は、賞金稼ぎに追われる身となってしまう。その後、たまたま出会ったネイティヴ・アメリカン、ノーバディとの逃走の旅がはじまる。見せ物としてロンドンに送られた経験を持つ彼は、ブレイクを、あの英国詩人と同一人物かその生まれ変わりと信じこんでしまう。最後に、ノーバディはブレイクを海に浮かべ、彼はゆっくり鏡の向こうの世界へと旅立っていく。

 サンフランシスコでのニールは、スクリーンを観ながら、画面から伝わってくるインスピレーションに導かれるまま、たった一人で、ギターやオルガンを弾きつづけたという。どのパートからも、鋭角的でありながら、豊かな広がりを感じさせる音が聞こえてくる。きわめて貴重なインストゥルメンタル作品という受け止め方もできるだろう。「まだ」という方には、本編をご覧になることもお勧めしたい。

 録音スタイルに関していえば、頭のどこかにマイルス・デイヴィスの『死刑台のエレベーター』があったのかもしれないが、つまりは、そこまでジャームッシュの作品世界を評価していたということであり、それが97年発表のドキュメンタリー『イヤー・オブ・ザ・ホース』へとつながっていくことになる。[次回12/24(火)更新予定]

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