
今年(2013年)9月のファーム・エイドでニール・ヤングは、76年に35歳で自殺したフォーク・シンガー、フィル・オクスの名曲「チェンジズ」を弾き語りで歌った。素晴らしいパフォーマンスだったが、その前に彼は「人生は短い」とオーディエンスに語りかけてから、名前こそあげなかったものの、カート・コバーンとのエピソードに触れている。才能豊かな若いシンガーがコンタクトをとってきた。会って話そうと何度か試みたが、その前に彼は頭を撃ち抜いてしまった。
ニルヴァーナの中心人物カート・コバーンが27歳でこの世を去ったのは、94年4月5日のことだ。すでに紹介したとおり、遺書と思われる走り書きにはニールの歌の歌詞が記されていた。
「消え去るよりは、燃えつきたほうが。」
それから4ヶ月後の8月、ニール・ヤングは、ひさびさにクレイジー・ホースと組んでつくり上げたアルバム『スリープス・ウィズ・エンジェルス』をリリースしている。そのタイトル曲は、明らかにカートへの鎮魂歌であり、作品全体が彼に捧げられたものと受け止められがちだが、収録曲の大半は事件の前に書かれ、録音も終えられていたものだという。
『ハーヴェスト・ムーン』プロジェクトを終えたニールがロサンゼルスのスタジオでアルバム制作を開始したのは、93年秋。それまでにクレイジー・ホースとつくり上げてきたいくつの作品が、目指すべき音として、彼の頭のなかにあったはずだが、結果的には、友人たちの死が暗い影を落としていた『トゥナイツ・ザ・ナイツ』に近い方向に進んでいくこととなる。15分近い大作《チェンジ・ユア・マインド》でも、豪快に弾きまくるのではなく、一つひとつの音をじっくりと弾き込んでいくソロが印象的だ。繰り返すが、カートの事件の前にほぼ完成していたことを考えると、不思議な話である。往ってしまったカートに語りかけているようにも聞こえるその《チェンジ~》は、93年のソロ・ツアーですでに歌われていたものなのだ。
ニールとクレイジー・ホースはまた、ゲスト・ミュージャンには頼らず、フルートやアコーディオン、マリンバなど、意外な印象を与える楽器も効果的に使っている。そういう意味でも特異な作品であり、過小評価されているような気がしないでもないのだが、僕自身は、間違いなく彼の代表作の一つだと思っている。[次回12/9(月)更新予定]