
1990年代の前半、何組ものアーティストが相次いでほぼ同じタイトルのアルバムをリリスーしている。『MTVアンプラグド』だ。アンプラグドとは、つまり、プラグを抜いた状態。基本的にアコースティック楽器だけでライヴを聞かせるというコンセプトとスタイルで収録されたライヴ・プログラムから生み出された、一連のアルバム群である。
世界初の音楽専門テレビ局として81年に放送を開始し、音楽界をヴィジュアル・イメージ偏重の時代へと導いたMTVがアンプラグドを企画したのは、89年のこと。開局から8年後に打ち出した新たな挑戦だった。ミュージック・ビデオだけを放送することによるマンネリの打開策でもあったのだろう。時を同じくして《ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド》によるニール・ヤングの復活や、オルタナティヴ・ロック勢の台頭といった動きも目立つようになっている。時代や音楽的潮流の変化が生み出した企画といってもいい。
エリック・クラプトン版の商業面での驚異的な成功が物語るとおり、アンプラグドは、80年代的トレンドに苦しめられたベテラン・アーティストとMTVの、ある種の「和解」でもあった。彼らはまた、少数のオーディエンスに囲まれて原点を再確認する場としても、アンプラグドを楽しんだはずだ。
ニール・ヤングは、『ハーヴェスト・ムーン』の制作と長いソロ・ツアーを終えたあと、93年の2月7日、LAのユニヴァーサル・スタジオでアンプラグドの収録に臨んでいる(アルバム発売は同年夏)。ニルス・ロフグレン、ベン・キース、ティム・ドラモンド、異母妹のアストリッド・ヤング、ニコレット・ラースンらが参加しているが、全編にわたってバックの演奏は控えめで、前年のソロ・ツアーの感触をそのまま収録スタジオに持ち込んだ感じだ。
プログラムは『ハーヴェスト・ムーン』収録曲が中心で、基本的にアコースティック系の作品でまとめられているが、あの《ライク・ア・ハリケーン》と、80年代のニールを象徴する曲《トランスフォーマー・マン》も取り上げられている。とりわけ興味深いのは、パンプ・オルガンを弾きながら、まるで教会音楽のように歌う《ライク・ア・ハリケーン》。そこで彼は、70年代には雷鳴のようなギターとともに歌った曲の、もうひとつの顔を示している。[次回12/2(月)更新予定]