『30~トリビュート・コンサート』(The 30th Anniversary Concert Celebration)
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 1992年の10月16日、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでボブ・ディランのレコード・デビュー30周年を祝う大規模な記念コンサートが行われている。ザ・バンド、ザ・バーズ、ジョージ・ハリスン、エリック・クラプトン、トム・ペティ、ジョン・メレンキャンプ、スティーヴィー・ワンダーなど直接的に彼の創作活動に関わってきた人も含むベテランたちから、トレイシー・チャップマンやエディ・ヴェダーといった若い世代まで、30組前後のアーティストが顔を揃えた、文字どおりのセレブレイションだった。ブッカーT&ザ・MGsにジム・ケルトナーとG.E.スミスが加わった豪華なハウス・バンドをバックに彼らがつぎつぎとディランの名曲を歌っていくという内容のこのコンサートは作品化され、翌93年夏にCD2枚組のライヴ盤としてリリースされている。

 ニール・ヤングにとってもボブ・ディランは、とてつもなく大きな存在であり、4歳しか離れていないのだが、つねに、その年齢差以上のものを感じてきたようだ。なにを書いてもディランのように聞こえてしまい、その壁を乗り越えるために苦労した時期もあったという。だから、当然のこととして彼は、年明けからつづけていたソロ・ツアーをいったん休止し、ニューヨークに駆けつけた。映像版には、大好きな兄貴の祝い事を無邪気に喜ぶ弟のような表情がたっぷりと残されている。

 レスポールを抱えて中盤に登場したニールは、「ジャスト・ライク・トム・サムズ・ブルース」を歌い、「ボブフェストをありがとう」という言葉を贈ったあと、「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」を聞かせている。いうまでもなく「ウォッチタワー」はディランの作品だが、そのパワフルな演奏は明らかにジミ・ヘンドリックスへのトリビュートも意識したものだった。

 ロジャー・マッギン/ペティ/ヤング/クラプトン/ディラン/ハリスンの順でリード・ヴォーカルを担当する「マイ・バック・ペイジズ」と出演者のほぼ全員が参加した「ノッキン・オン・ヘヴンズ・ドア」では、ニールとエリックがリード・ギターを聞かせている。後者では絡みもあり、ディランという存在があったからこそ実現したことではあるわけだが、なんとなく距離を置いてきたように思える同年齢の男二人がはじめて本格的な形で向かいあった瞬間を記録した、貴重な音源といえるだろう。[次回11/25(月)更新予定]

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