TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。「渋谷の再開発」について。
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小林麻美さんと食事をしていて、渋谷の東急百貨店本店がこの1月に姿を消してしまったことが話題になった。
「7階のMARUZEN&ジュンク堂がなくなって寂しい」とはいかにも読書好きな彼女らしい。「あそこは座って本を選ぶことができたでしょう。何冊かまとめてピックアップして、ゆっくり選ぶのが楽しかった」
昨年6月、慶應義塾大学で作詞家の松本隆さんのシンポジウムに臨んだ時だ。青山生まれの松本さんにとって渋谷は幼少時から慣れ親しんだホームタウンだったが、「渋谷に帰ってくると浦島太郎って感じがする。タワーホテルの上の方の階に泊まって渋谷の街を見下ろすと、穴ぼこだらけなんだよね。悲しい感じがするよね」と嘆き、「東京はちょっと壊しすぎ。壊そうという意見があるんだろうけど、経済があまり人間の役に立っていない、そんな感じがします」と学生に問いかけた(「三田文學」秋季号 2022 松本隆<言葉の教室>)
1967(昭和42)年の竣工だから東急本店の歴史は半世紀以上になる。
二十歳の慶大生松任谷正隆さんは屋上イベントスペースでアマチュアバンドコンテストに出場した友人のバックでキーボードを弾いていた。審査員から声をかけられたのはプロ志望の友人ではなく正隆さん。「ちょっと手伝ってくれないかな」。審査員は加藤和彦さんだった。まずはコマーシャルの仕事。そして次に吉田拓郎のスタジオに呼ばれる。レコーディングした曲が『結婚しようよ』。松任谷正隆さんの音楽人生は東急本店の屋上から始まった。
東横店が閉店して3年しか経っていない。ここ数年の渋谷再開発は東京っ子の思い出と憩いをどんどん奪っている。スクラップ&ビルドが急激すぎて、これまで培われた街と人の繋がりが消えつつある。