――写真はいつからですか。
2年くらい前です。仲のいいカメラマンに「やってみたら」ってすすめられたのがきっかけなんです。そのときの会話には写真やカメラの話は一つも出てこなかったのに、「マエケンさんは、きっといい写真が撮れると思うから」っていきなり言われて。驚いたけど、プロの人に言われると、やっぱり悪い気はしない。早い話が、乗せられてしまったんですね(笑)。ぼくの父親はカメラ好きで、オリンパスの一眼レフや縦にレンズが二つ並んだクラシックカメラを持っているような人でしたが、ぼくは物欲がほとんどないから、それまでカメラに興味を持ったことはなかったんです。
――なぜEOS 30Dを?
これも、そのカメラマンのおすすめ。量販店に一緒についてきて選んでくださったんです。素人向けのデジカメはたくさんあるけど、30Dは対応できる範囲が広いわりに、プロのものほど高価でもない。入門にちょうどいいカメラだって。フィルムを経てデジカメ……という手順を踏みたい気持ちもあったんですよ。踊りにたとえるとデジカメがヒップホップで、フィルムはバレエの基礎みたいなものかなってイメージしていたので(笑)。でもぼくの場合はデジカメに縁があったんでしょう。わき道にもそれず、これ1台で2年きています。
実際撮ってみて、「切り取るだけが写真じゃないんだ」って気づかされました。何も考えずに撮ったものは単なる記録だけど、撮る人が自分の意見とか気持ちを入れ込むと、見る人の心を動かしたりする。これが「写真はアート」といわれるゆえんなんですね。「作品をつくる」という意味で、ぼくがやってきた芸能の仕事とも相通じるものがあります。ものまねなんか、まさに「どこを切り取るか」「どう切り取るか」が勝負。まねする相手のしゃべりやしぐさのどこを引き出すか。忠実にコピーするのか、デフォルメするかの判断によって結果が変わる。写真はデフォルメができないので実物からそんなにかけ離れたものはできあがらないけど、制約があるぶん、撮る人ごとに作風の違いが出ますよね。
――目指す作風とは?
以前、ニューヨークに住んでいたせいか、ハーブ・リッツやブルース・ウェーバーなど、アメリカの写真家が好きで、ああいう都会っぽい街の雰囲気にひかれます。ただ、「自分が撮りたい」ってことではないかな。ふだんは仕事先のホテルの窓や移動中の車から、空や雲を撮ることが多いですね。あとは仕事先で出会った人たち。カメラ目線じゃない、自然でいい表情をしているときにシャッターを押します。
自分で撮るようになって、カメラ好き同士で写真の話をする楽しみができました。クイックビューアーでデータを見せ合って、「これいいね」って感想を言い合ったり。エプソンのフォトストレージも使います。じつはこれも例のカメラマンが、プレゼントしてくれたものなんです。EOS 30Dを買ったとき、「その(量販店の)ポイント、もらっていい?」って聞かれたのでお譲りしたんですが、その4~5カ月後に「はいこれ」って。ポイントで自分のものを買わず、フォトストレージに使ってくれたんです。やさしい方ですよね。カメラの液晶画面より大きいので見やすいし、一度に大勢に見てもらえるのが気に入っています。同じ写真でも、人によって反応が違うし、撮ったときはそんなに気に入ってない写真が後で見ると「いいな」と思えたりするのが不思議。かなり枚数をこなさないと、自分で納得のいくものは撮れませんけど……。今はとりあえず毎日持ち歩くことだけ心がけています。いいシーンに出合ったとき、「しまった、今日は持ってない」となるのが嫌。だから重いのをガマンして、カメラ本体とレンズ2本は必ずカバンに入れるようにしています。漠然とした願望なんですが、撮ったものを人に見せたとき、「ああ、これは前田健らしいね」というリアクションがもらえるようになりたいですね。
※このインタビューは「アサヒカメラ 2009年1月増大号」に掲載されたものです