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ニール・ヤング&クレイジー・ホースは、1991年1月から4月にかけて大規模な北米ツアーを行なっている。そこからライヴ盤『WELD』を送り出しているわけだが、アルバム『ラグド・グローリー』の制作とそのツアーを通じて彼は、新システムによってさらにパワーアップしたレスポールの音に、強い手応えを感じていた。計算されたフィードバック(アンプのスピーカーから出た音をギターのピックアップで拾い、循環させること)だけではなく、予期せぬタイミングで発生したハウリングやノイズからも、ポジティヴのメッセージを受け止めていたようだ。
またニールは、ソニック・ユースやソーシャル・ディストラクションといった次の世代のロック界を担うバンドをそのツアーのオープニング・アクトとして起用していた。60年代からのファンは反発したかもしれないが、しかしともかく、誰からともなくゴッドファーザー・オブ・グランジと呼ばれるようになる流れはすでにはじまっていたわけである。
もともとフィードバックやノイズを作品化するアイディアを持っていたというニールは、『WELD』の製作過程で、普通の人には「雑音」でしかないのかもしれない音や彼自身の断片的な声などをまとめ、まったく切れ目のない35分の作品に仕上げてしまった。ソニック・ユースの中心人物で、ノイズ・ロックという分野のパイオニアの一人でもあるサーストン・ムーアからの助言も大きかったという。そして、『WELD』との3枚組というスペシャル・エディションで世に送り出したのだった(単体でもリリースされた)。
中心となっているのは、「ライク・ア・ハリケーン」、「ラヴ・アンド・オンリー・ラヴ」、「トゥナイツ・ザ・ナイト」など。だが、それらを特定の曲として聞かせるのではなく、完全に一つの芸術作品に仕上げてしまっている。あえて形容するなら「美しき混沌」といったところだろうか。ニールは以前、刺激を受けたアルバムの一つとして、ジョン・コルトレーンがマッコイ・タイナーらと録音した『マイ・フェシヴァリット・シングズ』をあげていたが、そのやや意外なつながりも「なるほど」と思わせる作品である。[次回11/5(火)更新予定]
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