若杉冽(れつ)『原発ホワイトアウト』。現役のキャリア官僚が原子力行政の裏を描いた小説として、もっか話題の本である。正直、小説として出来がいいとはいえないが、一読の価値あり。なんたって原発の再稼働をめぐっていま起きている霞が関の動きが手にとるようにわかるのだ。
 関東電力の元総務部長で、いまは日本電力連盟の常務理事として保守党の幹部と太いパイプを持つ小島。経済産業省資源エネルギー庁次長で、やはり保守党の幹部を裏で牛耳る日村。自分こそが日本の未来を担っていると信じる、悪代官みたいなこの二人を中心に物語は進行する。
 日村に再稼働はどうするんだと尋ねられた原子力規制庁の審議官はいう。〈原子力規制委員会の本委員の任期はよう、5年もあるから、懲戒事由がない限り、交替はさせられないけどよう。専門審査会の委員の任期は2年、ワーキング・グループの委員の任期は1年だからよ、問題児は、ワーキング・グループ・レベルから一人ひとり替えていきゃいいんだよっ〉
 一方、日村は「大衆」について考える。〈大衆は、きれいごとには賛同しても、カネはこれっぽっちも出さない。原発を再稼働させないと電力料金がどんどん上がる、という構図を示し、大衆に理解させれば、徐々に、アンチ原子力の熱は冷めていく〉。そのためには〈電力会社の連中を逆さ吊りにして、鼻血も出ないくらい身を切らせた、という公開処刑のショーを大衆に見せてやらないと〉。
 「左翼のクソども」とツイッターでつぶやいた復興庁の参事官や「復興は不要だと正論を言わない政治家は死ねばいい」と匿名ブログに書き込んだ経産省のキャリア官僚なんて、ワハハ、氷山の一角なのさ。
〈現在の大衆は、原始人よりも粗野で愚かで短絡的だ〉とは日村の実感。後半では再稼働に抵抗する新崎県の伊豆田知事(モデルはもちろん新潟県の泉田知事)が失脚させられ、新崎県の原発は恐ろしいことになるのだが、それでも彼らが懲りないのがまたリアルなんだ。

週刊朝日 2013年11月1日号