『ディス・ノーツ・フォー・ユー』ニール・ヤング&ザ・ブルーノーツ
『ディス・ノーツ・フォー・ユー』ニール・ヤング&ザ・ブルーノーツ
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 85年夏発表の『オールド・ウェイズ』を最後に、ニールはゲフィン・レコードと決別。ふたたびワーナー系リプリーズと契約し、CSNYのリユニオン・アルバム『アメリカン・ドリーム』の制作と並行して、次のディケイドに向けた一歩を踏み出している。その第一弾が、管楽器奏者6人を含むユニット、ニール・ヤング&ザ・ブルーノーツの名義で88年春に発表した『ディス・ノーツ・フォー・ユー』。マイケル・ブルームフィールドからの影響を感じさせるブルージィなギターもたっぷりと聞かせてくれる、ニール版ブルース・アルバムだ。

 テクノ、ロカビリー、カントリーときた経緯もあり、一部には「?」といった反応もあったかもしれない。また失望や落胆を味わうのでは、と、こわごわ手を伸ばしたファンも少なくなかったはず。だが、作品全体から伝わってくる印象は、本格的な復活への兆しを強く感じさせるものだった。いや、復活という言葉は正確ではないだろう。ニールがまったく変わっていなかったことを、あらためて示すものだった。

 たとえば、タイトル曲でニールは、企業のために歌うアーティストたちを愉快に糾弾し、そのうえで「この音楽は聴く人たちのためのもの」と歌う。CM撮影中にマイケル・ジャクソンの髪が燃えた例の事件などをパロディ化した強烈ミュージック・ビデオも制作された(MTVが放送禁止リストに載せるなど、物議を醸したが、のちに大きな賞を授与されている)。この姿勢や視点こそが、60年代とパンク、グランジの時代をつなぐ精神だったといっても過言ではないだろう。また、翌年に発表されてアーティスト=ニール・ヤングにとっての大きなランドマークとなる「ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド」の予告編的な曲「ライフ・イン・ザ・シティ」も収められている。

 この時期からニールのサークルに加わり、以来ずっと、クレイジー・ホースとはまた異なるスタンスで彼の創作活動を支えていくことになるのが、チャド・クロムウェル(ドラムス)とリック・ロサス(ベース)。もともとはジョー・ウォルシュの人脈に属していた人たちのようで、ある機会にそのことについて聞くと、「オレからレンタル中」と、彼らしい言葉で答えてくれた。[次回10/7(月)更新予定]