――本格的に写真を撮り始めたのはいつからですか?
1984年、映画「アフリカ動物パズル」に音楽をつける仕事を頼まれて、監督の羽仁未央さんとケニアへ行ったのがきっかけです。資料用に撮ろうと、うちにあったペンタッスの一眼レフを持っていきました。「望遠だよ、望遠だよ」っていうCMのです。深く考えずに撮れそうだという単純な理由(笑)。兄からもらったのか、自分で買ったのかは覚えていません。ただ、視度調整アタッチメントは自分で買いました。アフリカでは砂埃と風がすごくて、コンタクトレンズが使えないと聞いていたので。私、近視なもので。
アフリカでは楽しい思い出ばかり。動物も鳥も草原も、何を見ても珍しくて次々とシャッターを押しました。もともと撮られるのが好きじゃないから写真を撮ろうとは思わなかったのに、アフリカで突然変わった。外光が強く、アジアにもヨーロッパにもない、くっきりした色が新鮮だったのかもしれません。いちばん好きな被写体は空。下が真っ平らな形をした立体的な雲が地平線上にいっぱい浮かんでいてドラマチックです。それに雨がくる前も、深いグレーとブルーが混じってとてもきれいなんです。
――なぜニコンF801Sを使っているのですか?
ファインダーをのぞいたときの感じが気に入りました。暗めだったり明るめだったり、カメラによって微妙に違うでしょう。いろいろ見比べて、のぞいたときの色がいちばん好きだったので。画角が広いことも重要ですね。デジタルも便利かなと最近買ってみたけど、画角が小さいと入り込めない。1月にコスタリカに行ったんですが、どうしても気が進まず、デジカメでは結局1枚もちゃんと撮らなかった。のぞいたときに楽しくないんです。ちゃんと使い込めていないという理由もありますが、顔を近づけると液晶に鼻の脂がべたっとついちゃうのも気になって。(笑)
――音楽活動と平行して、アフリカや南極など世界各地を訪れ、紀行文やエッセーなど雑誌の仕事もされていますね。
雑誌「マザー・ネイチャーズ」(新潮社)では、いろんなところを旅しました。80年代は佐藤秀明さんとガラパゴス、90年代は岩合光昭さんとタンザニアを回り貴重な体験でしたし、写真を撮るうえでも勉強になりました。プロは「撮りたいもの」のイメージがはっきりあるんだとわかりました。とくに岩合さんは、ねらった場面が撮れるまで絶対にあきらめない。同じ群れを何日も観察し粘る。そして撮りたいものに出合ったときの集中力がすごいんです。私は、横からそっと撮らせてもらっていました。
だけど、あとで写真を見比べるとびっくりしますよ。「同じ場所から同じ被写体を撮ってるのに、なぜこんなにも違うの?」って。技術の差はいうまでもないけど、いちばん大きな違いは、写真に「気持ち」がフォーカスされていることです。撮りたいと思うものをちゃんと見て、つかまえているから写真が強い。それに私は女性だから、興味の対象となるものが違うということも感じましたし、被写体への迫り方、寄り方が優しいというか…、ゆるいというか……作品の雰囲気が違う。その差が勉強になりました。
それ以来、写真を見る目が変わりました。部分を切り取っても、全体が見えてくる写真があるんだとわかった。動物の足元に何げなく写り込んだ枯れ草や小さい花、ひび割れた地面……そんな要素から、延々と続く広大な大地を感じさせることがある。広いものを表現するのにむしろ部分に寄ることで、全体が見えてくるんですね。現地の風や温度、においを知っているならさらに「ああ、いい写真だな」と感じられる。写真から読み取れるメッセージは、見る側の経験によって大きく変わるということなんですね。
※このインタビューは「アサヒカメラ 2007年11月号」に掲載されたものです