

1980年代のニールの活動は「迷走」と受け止められることも多かった。前回のコラムでそんなことを書いた。そのとおりなのかもしれないし、実際、ファンのひとりとして頭を抱えることも少なくなかったが、冷静に振り返ってみれば、音楽の方向性にしても、政治的なスタンスにしても、結局のところニールは、自分が信じるものを正直に追い求めていただけなのだろう。
85年夏にリリースされたアルバム『オールド・ウェイズ』は、本格的なカントリー作品だったこともあり、制作中から、当時の所属レコード会社、ゲフィンから横槍が入ったという。テクノ、ロカビリーときて、カントリー。デイヴィッド・ゲフィンの気持ちもわからないではないが、ニールは我関せずとばかりに、発売が決まる前から、同作に参加していたミュージシャンたちを中心にしたユニット、インターナショナル・ハーヴェスターズとともに、ほぼ1年半にわたって、豪州を含む本格的なツアーを行なっている。2011年にアーカイヴ・シリーズの一環としてリリースされた『ア・トレジャー』は、そのツアーで残されたカントリー系作品だけをまとめたもの。これを聴いて僕は、80年代のニールがただ迷走していただけではないということをあらためて理解した。繰り返しになるが、自分が信じるものを正直に追い求めていただけなのだ。
そして88年の秋には、CSNYとしての、18年ぶりのスタジオ録音アルバム『アメリカン・ドリーム』がリリースされている。作品全体を「80年代的サウンド処理」がうんざりするほど支配していて、『デジャ・ヴ』での、個人の集合体というレベルを超えた絆があまり感じられないのだが、ニールに焦点を当てると、彼はここに「ディス・オールド・ハウス」という注目すべき曲を提供していた。「この家に託した夢はビジネスマンたちにはわからない/銀行の連中が明日すべて持っていく」と歌われるその曲は、ウィリー・ネルソンらと設立したファーム・エイドの理念ともつながるものだった。[次回9/30(月)更新予定]
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