京都御所の北隣、同志社大学に三方を囲まれるように佇む冷泉(れいぜい)邸は、現存する最古の公家住宅。24代目当主の長女に生まれた著者が、25代目にあたる夫と二人、いまも住まう。明治維新で大半の公家が東京に移った後もこの家が動かなかったのは、家祖である藤原俊成・定家父子以来の典籍や古文書を収めた蔵のお守りを続けるためだ。戦乱や天災を乗り越え伝えられた書物の多くは、いまや国宝・重文に指定されている。
 冷泉家8百年の歴史からは、「歌聖」とあがめられる家祖2人を凌ぐ才能は出ていない。だが、それを自覚した代々が「そこそこ」の感覚を頼りに、次代につなげることこそが務めと自らに課してきたから、文学史を書き換えるような書物群は散逸を免れたと、著者はいう。
〈私たちは、「相変わらず」でいると、なぜかいら立って、なにか変わったことがないか探すのです。本当は、相変わらずほどありがたいことはないのに、と思います〉
 「墨守」とでも「前例踏襲」とでも呼ぶなら呼びなはれ──「守り」のスペシャリストの潔い覚悟が感じられる一冊だ。

週刊朝日 2013年9月27日号