銀行員・藤原道長はある日妻と娘を残して失踪した。直後に20億円に上る不正融資と横領が発覚。追われる身となった彼はホームレス生活を開始、ネットカフェ、公園、廃車、河川敷と自分のニッチ(最適の生息地)を探して転々とする。“生きる”という極限の冒険に飛び込んだ男の奇妙な物語。
 上野で先輩ホームレスからイロハを教わったことを皮切りに、路上生活のスキルを一つひとつ学んでいく。食糧調達はどうするか、安全な寝場所はどこか。人は壁や屋根がないと安眠できない、ゆえに段ボールハウスは偉大な発明である──生き延びる、ただその一点で見渡す街は、まるでちがう顔をもっている。
 時に、オヤジ狩りの中学生とガチで闘い、金を増やすために馬券を買う。転落でもヤケクソでもなく、常に感覚を研ぎ澄ませ、頭をフル回転させて生き残る道を探る彼の生活は、むしろ麻薬的な緊張感と高揚感にあふれる。
 終盤、背任事件の真相と失踪の真の理由が明かされ、怒濤の結末へ。これほど先が読めなくて、これほどカッコイイ「普通のおっさん」の物語はそうそうない。

週刊朝日 2013年9月20日号

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