著者は大阪の古書店「青空書房」を営む。90歳でいまだ現役の店主が、読書する素晴らしさと自身の人生、亡き妻への想いを語る。
 店の名物が休みの日に貼りだす「ほんじつ休ませて戴きます」のポスター。全部手書きで、洒脱なイラストとウイットに富んだひとことがつく。これが楽しい。「失望の壁一枚向うに希望が住んでます」「青春とはたくさんの本を読みたおすパッションだ!」。
 13歳から働き始め、戦後の日本に絶望。どん底から救ってくれたのはマティスの絵だった。結婚3日目、奥さんに「甲斐性なしやな」と言われちゃった話など、つらいこともうれしいことも味のある大阪言葉がみんな包んで、人生の豊かさ、面白さに変えてしまう。
 忙しくて話す暇もないからと、ある時から毎日妻に書き続けた手紙には掛け値なしの感謝と愛情があふれる。気取りも気負いもない平易な言葉が、心にじんじんとしみこむ。
 人はたいてい、思いをうまく言葉にできない。自分の心をそのまま言い表してくれる言葉に出会うと人は泣いてしまうのだ、ということを本書を読んで知った。

週刊朝日 2013年9月13日号

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