いつも持ち歩いているというニコンD200。フランスの雑誌「PHOTO」のベトナム戦場リポートで多くのカメラマンが使っていることでニコンにひかれ、72年の初来日はニコンF2を購入するためだった。以来、F3、F4、F5と使用し、ニコンは体の一部のようになっているという。社長として多忙な最近は、D100、D200などデジタルカメラが多い
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尾道市生口島の瀬戸田は、自伝的小説「遥かなる航跡」に度々登場する。昨年、34年ぶりに訪れ、瀬戸内海でいちばん美しいといわれる夕日をとらえた
北海道・網走湖の風景だが、繊細な枝の造形とモノクロで表現された写真は日本画のように美しい。コラスさんの日本の風景への愛情がうかがえる
フランス・プロバンス地方の村で夕方9時ごろ、息子を撮影。沈みかけた夕日が右側の壁に反射して、横顔に美しい輪郭をつくった。光の効果は、自ら「マジック」と名づけているモノクロの暗室作業で身につけたという

――初めての来日は、ニコンを買うためだったそうですね

 1972年、18歳のときでした。最初はひとり旅でブラジルに行く予定だったんですが、母が治安を心配して、エールフランス航空のパイロットをしていた父が「日本は最高の国だよ。見にいったら」と勧めてくれたんです。写真に夢中だった私は「ニホン=ニコン」でしたから、喜んで旅先を日本に変更しました(笑)。父は16ミリ映画を撮るのが趣味で、カンヌ映画祭のアマチュア部門で入賞するほどの腕だったんですよ。それで私も自然と映像に親しむようになり、13歳のときに初めてカメラを買いました。トプコンの一眼レフ、REスーパーです。クリスマスプレゼントに父にねだったら、「そんな高いカメラは子どもが使うものじゃない。欲しかったら自分で買いなさい」と怒られたので、自分でクリスマスカードを作って売る仕事をしたら大ヒットしたんです(笑)。驚く父に代金を渡して買ってきてもらいました。トプコンはシンプルな機能しかないプリミティブ(原始的)なカメラでしたけど、それが逆に撮影する技術を覚えるのに役立ったと思います。モノクロの暗室作業も父のスタッフだったチーフ・パーサーの女性が暗室を持っていて、「カメラマンの最後の仕上げは自分で紙焼きすることよ」とプリント技術を教えてくれました。あのころは本当に写真に夢中で、好きな女の子にビキニを着てもらってポートレートを撮ったりとか、今から考えても進んでるでしょう。(笑)

 そうして18歳のときにひとりで日本に来て、出たばかりだったニコンF2を買いました。

――そのときの印象は?

(うっとりして)持った瞬間に手が震えましたよ。機械の心臓の音が聞こえる気がしました。重さ、感触はどこか官能的で……ニコンのカメラを持つと女性に触れている気がするんです。それにカターンというシャッター音が素晴らしい。

 メーカーとしての姿勢もニコンはいいですね。自分が信じているところから譲らない。ときどき「間違っているんじゃないか」と思うけれど、頑固なところがいい(笑)。マーケティングがけっして上手なわけではないけどビジネスの面からいうと、それでいいと思います。マーケティングに引っ張られすぎて商品に過剰に影響すると、ほかの会社と同じものになってしまう。メーカーとしてはまず商品に魂を込める。それが先だと思うんです。これは私の会社にも通じる姿勢です。

――自伝的小説「遙かなる航跡」では、コラスさんらしき18歳の主人公が日本中を撮り歩く話が出てきます。最近は、どんな写真を撮っていますか?

 デジタルカメラで家族の写真が多いですね。でもパソコンの中に入れっぱなしで、全然整理ができていません。忙しくて、そういうアーティスティックな時間がないのが悩みのタネです。7、8年前に妻とミャンマーに旅行したときは、2週間で4千枚も撮りました。全部プリントしたので、うちの近所のプリントショップの人は大喜びでした。(笑)

 昨年、小説を書くために18歳のときに旅して以来34年ぶりに瀬戸内海を訪れて写真を撮ってきました。風景がかなり変わってしまっていて……。日本人はどうして風景を醜くするのが得意なのか、不思議です。

――すると、今後も撮りたいのは日本の風景ですか?

 それと日本人。日本人はこの35年間でずいぶん変わりました。だが、変わっていない部分もある。そこも含めて、日本人のコントラストを撮りたい。私はモノクロ写真のコントラストが好きなんですが、日本人のコントラスト、古いものと新しいものが共存する日本社会のコントラストが撮りたいですね。それと私は日本女性が好きなので……あ、誤解しないで(笑)。日本女性の美しさに興味があるので、それも撮りたい。小説で日本女性の美しさはある程度表現できたと思うので、今度はそれをビジュアルで伝えたいのです。

※このインタビューは「アサヒカメラ 2007年6月号」に掲載されたものです

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