海外のラグジュアリーブランドには、職人技=ラグジュアリーという考え方があるように思う。高度な技術を持った職人が長い時間をかけて作っていることに、日本以上に価値を見出しているような気がする。
グッチの青山店に、バッグや財布の製作作業を見ることができる期間限定の「アルチザンコーナー」ができた。このコーナーのためにフィレンツェから4人の職人が来日し、店内でバッグや財布の仕上げの作業を行なっている。職人というと、言われたままの仕事を黙々とするだけというイメージがあるが、実際の彼らの作業はかなりクリエイティブなものだ。
「デザイナーから届くスケッチ画は、これまで見たこともないようなものばかり。でもそれをどんな素材を使い、どう成型して縫製すれば、実際の商品にできるかを考えるのも私たちの仕事です。難しい場合もありますが、出来る限りデザイナーのクリエイティビティをそのままカタチにしたいと思っています」(リーダーのマッシミリアーノ・カンビ)
見た目のデザイン性だけでなく、長年の使用にも耐える“グッチ・クオリティ”に仕上げるのも彼らの領分。特に使用頻度が高く、細かい作業が必要な財布には、熟練の技が求められるそう。
「一般的な財布だと約40のパーツから作られています。これらをすべて縫い合わせていくのですが、サイズが小さいぶん、1ミリ程度の縫い目のズレでも目立ちますし、決まったサイズのカードが入らなくなることもある。成型や縫製には、バッグ以上に繊細な技術が必要なのです」
もちろん作業はすべて職人の手作業。ミシンとハサミ、ナイフ、金槌など、シンプルな道具だけで見事に製品が出来上がっていく。こうして日本に“出張”できるのも、グッチの商品作りが大がかりな機械に頼ったものではなく長年修行を重ねた職人の手技によるものだという、何よりの証と言えるだろう。ちなみにマッシミリアーノは、職人歴33年の大ベテランで、グッチでもトップクラスの職人だという。
「フィレンツェには、約80軒の皮革工房がありますが、そこでトップと認められた者だけがグッチの工房に入ることができます。グッチの職人になるということは、かなり誇らしいことでもあるんです」
特別に財布の製作をやらせてもらったが、やはりかなり難しい。薄く柔らかい革を偏りがないように貼りあわせていくのだが、自分ではなかなかうまく出来たつもりでも、よく見るとほんの少し浮いていたり、ズレていたりする。彼らはいとも簡単そうにやっているのだが、やはり見るとやるとでは大きな違いがある。
「初めてのトライにしてはうまくできていると思います。でも真っすぐな部分はもちろんカーブの部分も同じ厚みに仕上げないと、縫製の際のミシンの作業に狂いが生じてしまいます。左右の手の力の入れ具合が重要で、この作業だけでも数年間の修行が必要なんです」
どこの国でも職人になるというのは本当に長い修行が必要で、その繊細さは万国共通。そんな職人達が、世界中から一堂に集まっている様子を見ることができたら、とても興味深いのではないだろうか。