人を殺しも生かしもする言葉とは何かを問い、その言葉でユートピアを築こうと苦闘する劇作家がフクロウと暮らし始めた。闇を透視し獲物を追う孤高の狩人に真理の探究者を重ねたヘーゲルの「ミネルヴァのフクロウは迫り来る黄昏(たそがれ)に飛び立つ」を胸に少年期から憧れたフクロウとの共生が現実になったのだ。
2006年6月、ふ化後まもないアフリカ原産の小型種、赤ちゃんフクロウがやってきた。名づけてコトバ。まだ飛べない。泰然自若のイメージとは真逆のズッコケぶりだ。猫みたいにニャーと鳴く。作家の生活は激変する。ふつうのペットとは違う食餌。糞尿の始末。ブリーダーの助言に学びながらの右往左往。失踪事件も起きた。四十男が半狂乱になって心底無事を祈った9日間。奇跡の生還。
今、作家のかたわらには、ホーホーと言えるようになったコトバがいる。分別臭く相槌を打ちながら、原稿を書く作家の夜に付き合うのだ。予期せぬ出来事連続の明け暮れの記録が本書である。不滅の言葉を求めながら、限りあるコトバのいのちと向き合う著者の内省が行間ににじむ。感動する。
週刊朝日 2013年6月21日号