物語の舞台は「バージンパンケーキ国分寺」。曇りの日にしか営業せず、店に入ると非処女にのみ反応するドアベルがあり、謎めいた女主人「まぶ」が作るパンケーキは「レインボー・エナジー・ソース」や「プライベート・プラネット」といった、不可思議な名前ばかり。魔女に弟子入りした過去を持つという「陽炎子(かげろうこ)」や、幼なじみとその恋人に「三人でつきあおう」と真剣に提案するアルバイトの「みほ」など、店に出入りする面々も個性派揃いだ。
本書に収録されているのは、そんな彼らの来歴や恋愛にまつわる小さな物語だ。決して派手とは言えない人生も、美味しそうなパンケーキがそばにあることでちょっぴり素敵なものになる。まん丸のパンケーキは、恋をしたり傷ついたりしながら生きていくことを、優しく肯定してくれているかのようだ。
「こんもりとしたパンケーキを切るとミントのババロア、ラズベリーゼリー、スポンジケーキ、カスタードムースの層になっていた」……なんとも魅力的なレシピは巻末「まぶさんのパンケーキたち」にまとめてあるので、そちらも是非チェックを。
週刊朝日 2013年6月14日号
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