法務大臣が検察の独立性を超越して検事総長を直接指揮できる「指揮権」。戦後、発動されたのは一度だけだが、世間を賑わした「小沢事件」への検察の対応を巡り、昨年、58年ぶりに発動寸前の状態にあった。本書では発動予定の前日に解職された当時の法務大臣の著者が検察の腐敗を糾弾している。
 政治家、小沢一郎氏の資金管理団体が収支報告書で会計処理を誤った事件は、検察が会計処理の背後に不正資金があると睨んだことで国政を左右する事件に発展した。結局、小沢氏は無罪に終わったが、世間ではグレーの印象が未だに強い。最大の理由は検事が偽装した捜査報告書の存在に求められる。本書には捜査報告書の全文と隠し録って作成した実際の録音反訳書が収められているが、報告書の8割近くがねつ造であり、開いた口がふさがらない。
 組織ぐるみのねつ造を「担当検事の記憶違い」で終わらせようとする検察の隠蔽体質に著者は指揮権をちらつかせたことで、返り討ちに遭うが、自身の解職については多くを語らない。検察が抱える闇は我々の想像以上に深くて暗い。

週刊朝日 2013年6月7日号