評判の美人を商家につとめさせ、知らずに手引きをさせてはあっさり殺す。胸元に狐の絵を残していく。3人の娘の命を奪った盗賊団「火狐(ひぎつね)」に江戸は騒然となる。
 しかし事件には矛盾が多い。
 奪った金は少なく、恨みの形跡もない。主人公の同心、大沢源之進は4度目の犯行を察知、現行犯で盗賊団を捕まえたものの、腑に落ちない。そこに“真犯人”が浮上する。火消し「は組」組頭、多助は26歳で長屋の一人暮らし、足繁く通う女がいつもいる。追及をきわどくかわしつつ、
 「火狐の一件は旦那の読みが多分いちばん正しいんですぜ」
 と、意外な真相にたどり着くまで、源之進を翻弄する。
 著者は2010年に松本清張賞を受賞した。受賞作の『マルガリータ』は天正遣欧少年使節の一員、千々石(ちぢわ)ミゲルの棄教と妻を描き、本作が4冊目。著者が受賞したとき、「ペンネームに『嵐』の字が入っていますが、京都を走る小さな私鉄、嵐電(らんでん)のように、私もコトコト走っていきたい」と語っていた。その走りはしっかり軌道に乗っている。

週刊朝日 2013年6月7日号

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