あの震災から2年たったとかいって、テレビも雑誌も新聞もいろいろ論評してる。だけど活字にも映像にもちょっと疲れた。だからみんなでラジオを聴こう。最後に役に立つのは結局ラジオなんだからね。
あ、でもこのラジオにはラジオ局もスタジオもない。パーソナリティのDJアークがいうには〈あなたの想像力が電波であり、マイクであり、スタジオであり、電波塔であり、つまり僕の声そのものなんです〉。そんな声は聴こえないという人も大丈夫。いとうせいこう『想像ラジオ』がラジオの代わりをしてくれる。
想像だからと舐めちゃいけない。リスナーのメールも続々届く。〈みんなで聴いてんだ。山肌さ腰ばおろして膝を抱えて、ある者は大の字になって星を見て。黙り込んで。/だからもっとしゃべってけろ、DJアーク〉。これは想像ネーム・ヴィレッジピープルさんからのお便り。
リスナーの電話中継も入る。では早速呼んでみましょう。キミヅカさーん。〈はい、キミヅカです〉と応じた会社役員の男性はリアス式で入り組んだ海岸に建つ宿にいる。〈今、私は二階の廊下を進んでいます〉。が、その下の階段がない。〈エレベーターも動かない現在、そこから下へ行く手段を失っています〉
DJアークは38歳。東京での仕事をやめ、妻とふたり海沿いの郷里の町に帰ってきたばかりだった。その彼はいま高い杉の木のてっぺんに仰向けに引っかかっている。
DJアークのおしゃべりやお便りや中継の合間に(想像で)かかる曲もいかしてる。ザ・モンキーズ『デイドリーム・ビリーバー』、ボサノバの名曲『三月の水』、松崎しげる『愛のメモリー』……。ラジオ番組だから、ジングルだってもちろんあるさ。
想ー像ーラジオー。
3・11後の震災文学の中でも出色の一冊。彼がそんな状態に置かれているのはなぜなのか。そして彼が語りかけている人々とは? 知りたかったらラジオを聴こう。本の形のラジオだから何度でも再生できる。
週刊朝日 2013年3月29日号