「人生であと何回食事ができるかわからないのだから、つまらないものでお腹を一杯にしたくない」。銀座「レカン」、恵比寿「シャトーレストラン タイユバン・ロブション」オープニング支配人など、錚々たるレストランで一流のサービスを提供し続けてきた著者が、年配の客に言われた言葉だ。
しかし、いくら著名なシェフが最高級の食材を用いて作った料理であったとしても、そこに客の気持ちを細やかに汲み取ったサービスがあって、初めて「感動」が生まれるのではないだろうか。本書には、そんなサービスの本質が余すことなく、平易な言葉で綴られている。
著者は、日本には相手や食べ物を敬い、感謝や歓迎の気持ちがこもった「おもてなしの文化」があると指摘する。本書で語られるサービスの具体例やその哲学は、レストランの中だけのことではなく、良好な人間関係を構築する上での示唆に富む。
その一方で、自分はそれだけのサービスを受けるに値する人間性や風格を備えているのか。襟を正さずにはいられなくなる。
週刊朝日 2013年3月8日号