主人公の糸井美幸は、美人ではないが、男好きのする色っぽい女。その姿を見た男たちは、「あの女、やりまくっとるぞ」と、ささやき合う。そして、そんな彼女の周りには、恐喝、保険金殺人など、犯罪の匂いが立ち込め、黒い噂が沸き起こるのだ。
 木嶋佳苗など、マスコミを賑わせた実際の「毒婦」たちの事件を彷彿とさせるが、美幸の行動は、どこか痛快さを感じさせる。
 舞台は、不況のただなかにある地方都市。そこに住む、しがらみで身動きが取れず、疲弊しきった人々のなかを、自由自在に、女の武器を巧みに操って軽やかに駆け抜ける美幸は、むしろ眩しいような存在でもあるのだ。そして、この小説の真の主役は、彼女に欲望を抱いたり、憧れたりしつつ、日々の生活を送る、地方のありふれた、ごく普通の男と女たち、とも言えるだろう。
 エピソードを並べつつ、長編として読ませる著者お得意の手法は、今回も見事に決まっている。登場人物たちが、活き活きと物語を躍動させ、ページを繰る手が止まらなくなる。

週刊朝日 2013年2月15日号