ノムさん著『プロ野球重大事件誰も知らない“あの真相”』はタイトル倒れでつまんなかったがこっちは面白い。いやー、やっぱノムさんはいいですね。目次を見ると「ベテランの活かし方」とか「阪神タイガースへの提言」とか、見飽きたような章タイトルがある。が、読んでみるといい意味で裏切られる。
 ノムさんが阪神監督に就任してからの、球団内部およびとりまくOBやマスコミとの間に生じた恨みつらみが、じっとりと吐き出されている。「ワシはうまくいかなかった……」という湿気たっぷりのボヤキが主となり、ボヤく原因となった相手についてねっとりと恨みを開陳する。最初からボタンの掛け違いがあった今岡誠と、最後までわかり合うことができなかった……という話を、ジメつかせながらもサラリとしてみせる。成長させようとして非難したが、今岡は怠慢プレーを続ける。そして「ついに私の真意が伝わることはなかった」とちょっと悔いてみせるようなフリをして、その話を終わらせるのだ。今岡とそこまでうまくいってなかったのか、ノムさん。でもそのサラリとした終わり方が、かえって「いったい今岡は何が気に入らなかったのか」と読者の心をあとあとまで引っぱる。「今岡ってのはそういう頑ななヤツか」という怒りすらわき上がる。今岡の言い分を聞いてみたい。
 もちろん自慢話もあり、素質しかなかった井川を発見してエースに育てた。しかし大リーグでの非活躍ぶりが知れ渡っているので、あまり「いい気な自慢話」に聞こえないのも人徳のなせるわざか。どんなチームでも「うちは虹色!」なんてことはなく、暗黒なのもタイガースだけじゃないが、ノムさんの口調で語られるとほんとうに真っ黒に思えてくる。少なくとも巨人の体制よりはダメなのは確かっぽい。でも阪神の真っ暗よりノムさんのジメジメな口調のほうが頭に残るので、それほど危機感をもたないですみ、阪神ファンには有り難い本です。

週刊朝日 2013年2月15日号