雑誌の連載コラムでもブログでも、書き手がどこかの党派に属したり何らかの公職につくと、書くものが急激におもしろくなくなる。
 かつて「週刊文春」に連載されていた猪瀬直樹「ニュースの考古学」が急激につまらなくなったのは、小泉政権下で道路関係四公団民営化推進委員会の委員に就任した頃からだった。毎週毎週、道路、道路、道路の話。やっぱライターはさ、無責任な立場で無責任なことを書き散らしているのが一番よ。
 さて、その猪瀬氏も出世をとげ、いまや泣く子も黙る東京都知事だ。副知事時代の昨年11月に出版された『解決する力』は「立場が人をつくる」が実感できる本である。
 官僚化した東京電力との闘いを語り、電力不足を訴え、石原慎太郎都知事(当時)の尖閣諸島購入案を支持し、東京五輪の意義を力説する。これって東京都政のPR? 都知事選の選挙公報? いやいや、本人によれば〈『言葉の力』『地下鉄は誰のものか』『決断する力』でさらに説明責任を果たしているところだ〉。
 自著を評して説明責任ときたもんだ。さすが権力の座についた人は、いうことがちがうね。『三四郎』の広田先生に「日本は滅びるね」といわせた漱石を「(国家の)家長」の自覚がないと叱るあたりも、天下国家を見すえている方ならではだ。
 さらに特に感心したのはここ。〈石原さんは80歳だが70歳に見える。僕は50歳くらいですかと訊かれる〉。なんと若さ自慢である。自慢ついでにもう一言。〈意志のある生き方と漫然と流されるだけの生き方と、歳の取り方の結果は明らかに異なると思う。僕は65歳で東京マラソン初挑戦・初完走した〉
 前任者にますます似てきた新都知事。新年早々、五輪招致PRでロンドンに赴いた際には記者会見で「僕自身がスポーツマンであること」をアピールポイントにあげた。若さ自慢、体力自慢は本気だったんだ。『50歳を超えても30代に見える生き方』の南雲吉則先生みたい。

週刊朝日 2013年2月8日号

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