脚本を手がけた舞台「男おいらん」が終演した。
とにかく大変だった。予算があまりないのに「男おいらん」という特殊な設定のために着物などの衣装代もかさみ、しまいには舞台上に本当の水を張った川を作り、その上に丸い橋を架けることになった。この案は演出家が出したため、まず、彼が演出料を辞退した。
さあそうなると脚本料を受け取ることにしている私が居心地が悪い。さらに追加で着物が必要となった際、プロデューサーが私にすまなそうに脚本料を少し削ってもいいだろうかと尋ねてきた。私は、もういただかなくていいですよ、と答えた。
今回の話は江戸時代風に作り上げるためにさまざまな小道具も必要となる。かなり予算オーバーしているのは見てわかっていた。普段の私なら、でもこれは仕事なのだからと原稿料をしっかりといただいたかもしれない。けれど辞退したのは、演出家を始めとする役者達の熱意に胸を打たれたからだった。
着物など着たこともない17人の役者達が、稽古時も着物姿で頑張っている。セリフのひとことひとことの意味を考え、役作りに打ち込んでいる。徹夜で稽古し、カップ麺すら食べる暇がないほど集中している彼ら。彼らのひとりは私にこう言ってくれた。
「僕らは、みかさんの世界を具現化したいんです。この舞台、どうしても成功させたい」
フラフラになって稽古に励む姿を目にしたら、脚本料を受け取れるわけがなかった。それどころかピザやらカロリーメイトやらゆで卵やら、せっせと差し入れし続けたので、結局のところ金額的にはマイナスである。
でも私は大切なことを彼らから教わった。彼らの最後まであきらめず作品を作っていく根性や粘りを、私は今後、小説を書いていて行き詰まった時や、それから、人生においても、何度も思い出すことになりそうだ。
この「男おいらん」、初日の時点では、平日のチケットは半分近く売れ残っていたのだけれど、観た人が絶賛してくれたからか、初日終了後、急激に売れ行きが伸びた。補助席を出してもすぐに売り切れ、まさかの 12回公演すべて満員御礼状態となったのだった。頑張った彼らも、そして私も、「成功」というお金では買えない宝を手に入れたと思う。