著者は九州大学大学院で教鞭をとる臨床心理学の研究者。本書では、北海道発の人気バラエティ番組「水曜どうでしょう」の内容分析を試みている。同番組は、出演陣2名、制作陣2名、計4名の男たちが行き当たりばったりの旅をするのがウリ。出演陣のやりとりだけでなく、制作陣が普通にしゃべり、フレームインしてくるのも見どころのひとつだ。出演/制作を分けることなく、4人のファンという視聴者も多い。
 このユルい番組に、おカタい職業の著者が挑むという組み合わせが面白い。制作陣へのインタビューを通じて明らかにされるのは、番組を作りつつ番組に出てきてしまう彼らの特殊性。タレントによる旅企画の遂行という既定の「物語」の外に「何かある」と感じさせることで、狭苦しいレンタカーに男がすし詰めだったり、車窓の風景がイマイチでも、全く飽きない。そして視聴者が「いるけど見えない、見えないけどいるという霊の立場」で旅に参加し、思い出を共有しているという指摘には、噴き出しながらも納得してしまった。

週刊朝日 2012年12月14日号