著者は韓国現代文学を牽引するトップランナーのひとり。韓国でもっとも権威ある文学賞とされる「現代文学賞」を受賞、啓明大学の文芸創作学科で教鞭をとるなど、精力的に活動している。
 著者の、日本ではじめての翻訳単行本となる本書には、表題作を含む、八つの短編が収められている。静かで乾いた文体の中に、グロテスクだがどこかユーモラスな言葉がぽんと飛び出してくるのが印象的だ。たとえば「お父さん、ごめんなさい。後でいい棺に納め直してあげるから」と言い、亡父の棺を金槌で破壊しようとする姉に向かって、弟がこともなげに「あんまり強く叩くなよ。親父の顔を叩きそうだ」と言ったり、死を間近に控えた女が、天井の一点を見つめ、うわごとのように「毛深い象。街を歩き回るのね」と微笑まじりに繰り返したり。
 物語は死の間近で展開しているのに、恐怖よりも面白さが勝る。文学性とエンタメ性の融合である。ドラマアイドルだけが韓流の魅力ではないと感じられる一冊だ。

週刊朝日 2012年12月7日号