東大阪市高井田地域は、日本でもっとも工場が密集している町。9割方が従業員20名以下の小さな工場だ。スプリングやネジ、プラスチック製品の成形に欠かせない金型など、私たちの生活を支える物の数々がここで生み出されている。本書は、聞き書きの名手として知られる著者が13社を訪ね、工場主たちの話をまとめたもの。それぞれどんな物を、どうやって作っているのか。時代によって変わったこと、変わらないことは何か。飾らない語り口から、工場町のいまが見えてくる。
 まず、各社の製品にまつわる話が面白い。たとえばバネはどんな機械にも入っている上に消耗品だから、技術さえあれば注文がつづく分野だという。そう聞けば、小さな部品を見る目も変わる。ミクロン単位の金属表面処理から鉄道・航空機部品まで、工業製品とはいえ生身の人間が考え、工夫し、技を磨いて作る。機械化が進んでも「最終的には人の加減」。よい品を納めて信頼を得てきた誇りがあるから、「おっちゃん」たちの言葉は背筋が通っている。学ぶべきことは多い。

週刊朝日 2012年11月23日号

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