もうすぐ「美男時計」なるPCソフトができるという。ダウンロードすると、毎分毎分違うイケメンが現れるものだ。彼らは時刻が手書きで書かれたボードを持っていて、私たちはイケメンと時刻とを同時に眺められる。

 すでに「美人時計」なるものがあり、男性のデスクワークの癒しとして人気になっていた。そしてこのたび、「美男時計」もリリース決定となった。女性達からのリクエストがかなりたくさん舞い込んだからだ。

 この美男時計の撮影を、先日見学させていただいた。もちろん、間近でイケメンを拝んで頬をゆるませたいからである。
 しかし当日、撮影枚数を聞いて唖然(あぜん)とした。1日は1440分なので、つまり1440枚の画像が必要なのだという。1人の男性で4パターンの撮影をするので360人分の撮影をしなくてはならない。街頭でおしゃれな人に声かけをしても、とても1日では終わらない。私が同行した日も数時間かけて10人を撮影できただけだ。なんと1日に1人しか撮影できなかったこともあったのだとか。すべての撮影を終えてリリースできるのは「年内ならうれしい」と、結構気が長い。

 驚いたことに、撮影に協力してくれた男性に謝礼はない。けれど皆、実に気持ち良く撮影に応じてくれる。ファッション誌の「街で見かけたおしゃれな人」というページと同じような感覚でいるのだろう。
「どこで撮影しているんですか」と問い合わせてくる人もいるけれど、あえて公開してはいないという。偶然見かけた素敵な人の自然な笑顔を収録したいからだ。

 そして自称「イケメン評論家」の私も、黙って見ているばかりではなく、スカウトのお手伝いをした。50メートル以上先から歩いて来る素敵な男性を見つけて「あの人カッコいいから声をかけてくださいッ!」とカメラマンに直訴したのだ。
 しかし、私が見いだしたイケメンは、手前のショップに入ってしまった。私はハチ公のようにお店の前で何分も待ち、買い物帰りの彼が出てきたところをすかさずアタックした。OKをいただけた時は、大きな仕事をやり遂げたような達成感があった。自分が見つけたイケメンさんが「美男時計」というソフトとなる。これはイケメン小説を書くのとはまた違うリアルな歓びだった。

 でも、それ以上でも、それ以下でもない。
イケメンさんは撮影が終わった後は、何事もなかったかのように、また街の風景に溶け込んで行ってしまった。ほんの一瞬、足を止めて、撮影に協力してもらう。ただそれだけの関係だった。撮影させてもらった方々に、再び連絡を入れるということはないという。一瞬だけの関わりはせつないほどにさっぱりとしていた。

 時刻のボードを持ってにっこりと笑う美男子達。彼らの今、その瞬間だけが、デジタルカメラに記録されていく。
 決して深入りはしない、街角で見かけた素敵な人。だからこそ、このソフトは人気があるのかもしれない。そしてサラリとしているからこそ、オフィスでも違和感なく受け入れられているのだろう。アイドルの誘うような表情とはまた違う爽やかさがそこにはあった。

 それにしても360人のイケメンがずらっと揃うのはスゴイ。「美人時計」のマニアさんには「何時何分の女性が好き」などと自分のお気に入りの時刻があるという。私も早くお気に入りの時刻を見つけてみたい。
 パソコンの画面でイケメンが微笑んでくれたら、髪振り乱して頑張っている締め切り日でも、少しは身なりにも気をつけるようになるかもしれない。
 

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