一方、「改憲勢力」が勝利したことがそのまま憲法改正につながるわけではない、と語るのは、慶応義塾大学の小林節名誉教授(憲法学)。

「参院選で改憲勢力が増え、論議はそちらに傾くでしょう。だが、憲法改正の発議には、国会の3分の2の議決に加え、その後の国民投票の過半数の賛成が得られないとできません。ハードルは高い。今、国政選挙は投票率が50%前後と低い。自民党は有権者の40%の得票、信任で70%の議席を得ているが、低投票率に助けられている部分がある。国民投票になると世論も湧き、高い投票率になると、過半数をとれるのかは疑問です」

 と話した上で、こう指摘する。

「日本国民は、現行の憲法にかかわらず、すでに日米安保条約を受け入れ、自衛隊も容認している。ロシア、中国、北朝鮮の脅威に対する抑止力強化についても国民の一定の賛同はあるはずです。憲法を改正をする必要はなく、現行のままでも対応できる」

 安全保障については、憲法改正をしなくても対応できるという議論もあるのだ。

 前出の自民の幹部は、

岸田首相は、ああ見えても、非常に頑固で公約に書いてある通り、憲法改正は絶対にやり遂げようとするでしょう。特に安倍さんの思いを自らの手で遂げたいとも思っているはず」

 との見方だ。

 安倍元首相があのような形で亡くなったことが、憲法改正の動きにどう影響するのか。今後の議論に注目したい。

(AERAdot.編集部・今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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