王がトイレの中に閉じ込められる珍事件が起きたのが、71年6月29日の阪神戦だ。

 試合前、ベンチ裏のトイレに入った王は、いざ出ようというときになって、閉めた扉が押しても引いても開かなくなり、密室から出られなくなってしまう。

 必死になって中からドンドン扉を叩きながら大声で助けを求めると、声を聞きつけたチームメイトの黒江透修と報道陣が駆けつけたが、みんなで力を合わせても扉を開けることができず、救出作業は難航した。

 だが、最後の手段で内側から王が引っ張り、外から黒江がドシーン!と体当たりすると、ようやく開き、何とか試合に間に合った。

「王選手、トイレに閉じ込められて欠場になるところだったね」と照れくさそうに語る王に、黒江も「これでウンがついたんじゃないかな」と縁起を担いだが、この日は勝負してもらえず、3四球の1打数無安打と不完全燃焼。「ストライクゾーンを外れるクサい球ばかり投げるよ」とダジャレまじりにボヤく王だった。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

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