巨人選手時代の王貞治は、不世出のホームランバッターであるとともに、チームメイトたちの敬愛を集める人格者としても知られ、“聖人”のようなイメージすらあった。
だが、その一方で、若いころは合宿所の門限破りの常連だったという証言もあり、ヤンチャだったり、お茶目だったり、はたまた、思わずうっかりのチョンボや珍ハプニングありと、人間味あふれるエピソードも多い。
スランプに悩む王が、人間くさい一面を見せたのが、1967年4月27日の大洋戦だ。
試合前の打撃練習で会心の当たりが出なかった王は、ロッカーに引き揚げてくるなり、「もう帰る!」と言って、風呂場に飛び込んだ。
もちろん「帰る」は冗談で、水を浴びたあと、ユニホームに着替えたのだが、試合が始まっても、好調時のイメージとはほど遠い状態が続く。
1回の先制機には捕飛を打ち上げ、4回の2打席目も一塁へ併殺コースのゴロ。敵失に救われて出塁したものの、5回の3打席目も打ち損じて二飛に倒れた。
だが、5対1の7回2死の4打席目で右翼席ギリギリに入る本塁打が飛び出した。それでも王は、納得のいかない当たりに、一塁ベース手前で立ち止まると、半信半疑で打球の行方を目で追った。
すると、福田昌久一塁コーチが怒り心頭でカミナリを落とした。「もしフェンスに跳ね返ったらどうするんだ?罰金だぞ!」。
王が慌てて走り出したのは言うまでもない。
王の珍プレーといえば、66年11月14日の日米親善野球・ドジャース戦で、本塁打を打った直後、一塁ベースを回ったところで、前の走者・柴田勲を追い越してアウトになったチョンボが知られているが、69年4月18日の大洋戦でも、ふだんの王では考えられないような珍プレーを披露している。
3対2とリードの8回、巨人は先頭の柴田が中前安打で無死一塁のチャンスをつくるが、次打者・王はショート・柴田信夫の頭上に高々と飛球を打ち上げてしまう。
アウトと思った王は一塁に走るのをやめたが、直後、目測を誤った柴田が突っ込み過ぎて、後ろにそらしてしまったことから、まるでコントのような連続珍プレーを誘発する。