「たとえば、千葉県の南房総邸には1937年生まれの最年長家守さんがいて、現役のカメラマンでもあります。深いお話も多くて、自分を見つめ直すきっかけを与えてくれました。横山さんは毎日、法華崎という海岸で夕日の写真を撮っているので、一緒に行って陽が沈むところを眺めたりします。1~2時間、空の色が刻々と変化する様子を、ただぼーっと眺めながら自分のことを考える。日常のなかで、そういう時間を持つことが、とても貴重に思えました」
多くの人が行き来しているため、家守に限らず、老若男女、さまざまな人に会える。それも貴重な体験のひとつだ。
「ここでは、たまたま出会う人たちばかりなので予定調和がなく、そのぶん新鮮でおもしろいんです。利害関係もないし、相手の肩書も知らないから、お互いの人間性だけで触れ合えるので、とてもフラットな関係が築けます。たまたま今日、同じ家で出会った人同士、というシンプルな関係性。それがとても心地いいんです。そこから、ときには仕事につながることもあれば、趣味の世界を広げてもらえることもある。とてもいい場になっていると思います」
もちろん、会員のなかには、こうしたコミュニケーションを望まない人もいるが、それはそれでOK。リモートワークのために使いたい人は個室にこもって仕事をし、誰とも会話をしなくてもなんの差し障りもない。基本は長くて1~2週間の滞在なので、個人の生活を崩さずに利用できるところが、定住するシェアハウスとの大きな違いだ。自由度が高いので、どんな人でも気軽に使うことができるのだ。
精力的にアドレスホッピングを続け、新しい場で見聞を広め、人と出会ってきた久米さんだが、常に動いている生活に少し疲れを感じ、休会した時期もあった。千葉県の習志野邸という人気の家に専用ベッドを契約し、別途、借家探しもしたが、結局、完全に多拠点居住から離れるという選択にはいたらなかった。
「一度休会して習志野を拠点にしたら、だいぶ気持ちが落ち着いて、この生活に対する見方も変わりました。それまでは常に自分が訪ねていっていたのが、今度は受け入れる側になり、精神的にいいバランスになったようです。それでまた、変化を求める気持ちが募ってきて、新しいホッピングを始める気分にもなりました。やっぱり、おもしろいんですよね、ADDress生活。それを知っているぶん、まだどこかに定住しようという気持ちにもなれないので、もう少し、この生活を楽しむ予定です」
(構成/生活・文化編集部 清永 愛)