特定の「家」を持たず、その時々で好きな住居を転々とする暮らし方がある。これを「多拠点居住」、多拠点居住を選択した人々を「アドレスホッパー」などと呼ぶ。
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新型コロナウイルスの感染拡大に伴うリモートワークの一般化が、会社員を含めた多くの人々にとって「移住」を現実的な選択肢にしたとすれば、「多拠点居住」を現実的なものにしたのは、住まいのサブスクリプション(サブスク)サービス、つまり、「定額住み放題サービス」の登場だ。月々一定の料金を払えば、全国に点在する提携物件などを好きなだけ利用できる。
家に縛られず、好きな時に好きな場所で暮らすことへの憧れはあっても、実際にどんな日常になるのかは、なかなかイメージしにくい。定額住み放題サービス「ADDress」に入会し、すでに40カ所以上で暮らしたという久米恵さんの第一印象も、「こんなサービスがあるのか」という「衝撃」に近いものだった。
久米さんは、生まれも育ちも大阪という生粋の浪速っ子。大学卒業後、いくつかの仕事に就いたものの、常に「何かが違う」という思いがあり、30歳を目前に一念発起。ワーキングホリデーを利用して2年間、イギリスへ留学した。多国籍の人が集うロンドンに住み、「ありのままの自分でいいんだ」と実感できた貴重な年月だった。永住してもいいとまで思ったが、ビザの関係でやむなく帰国。再び大阪で事務の仕事をしつつ、興味のあったアンティーク雑貨などを扱う事業を自ら興した。
しかし、次第にモノへの執着が薄れていき、自分の仕事にも疑問を感じるようになる。一度すべてを手放して、自分を見つめ直す時間を持つことにした。
「そのころ、仕事の関係で月に2回は上京していたので、『いっそ東京に住んでみようかな』と思ったんです。じゃあどこに住もうか。あれこれ検索していたとき目に飛び込んできたのがADDressでした」
最初は驚いた、と久米さん。
「こんなサービスがあるのか、と。いろいろな場所に住めるのも魅力だし、移動するなかで気にいった場所が見つかるかもしれない。あんまり希望とドンピシャだったので、1回落ち着こうとページを閉じました(笑)」