この最大の山場で、育英・日下篤監督は、なんと、センターを守っていた大村直之(元近鉄-ソフトバンク‐オリックス)をワンポイントリリーフに指名した。
大村は中学時代に投手経験があり、6月の練習試合でも登板していたが、高校入学後はほとんど投げていない。それでも、日下監督は「大村の度胸にかけた」と急造投手にチームの命運を託した。
「まさか、あんな場面で投げるとは」と驚いた大村だったが、「気合で押すしかない」と開き直って直球勝負。見事畑山を直球で詰まらせ、三邪飛に打ち取った。ここでセンターから再登板の松本が次打者を打ち取り、無失点で切り抜けた。
そして、直後の8回、育英は3番・大村の二塁打と送りバント、内野ゴロで貴重な1点を挙げると、そのまま1対0で逃げ切り、前年春に続いて甲子園出場を決めた。
後に大村自身も「人生であれ以上の試合はない」と振り返った熱闘を制した育英は、甲子園でも春日部共栄、市船橋などを撃破し、初の全国制覇を成し遂げている。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。