プレーボールの5分前、日川の左翼手兼投手の広瀬正彦がベンチ前に進み出て、「2年2組、広瀬正彦、大会歌を歌います!」と大きな声で挨拶した直後、「雲はわき、光あふれて♪」と歌いはじめた。

 最初は何が起きたかわからなかった観衆も「いいぞ!」と大喜び。広瀬が多少音程を外しながらも最後まで歌い終えると、スタンドから惜しみない拍手が贈られた。

 実は、このパフォーマンスは、「試合前の緊張をほぐしたい」という同校の宮本忠文監督の意を受けて、チーム内でも芸達者で知られる広瀬が自主的に歌ったものだった。

 甲子園出場をかけた大事な一戦を前に、大会歌で気分を盛り上げた効果はてきめんだった。

 試合開始直後の1回1死、2番打者として打席に立った広瀬は、後に立大などで活躍した甲府西の好投手・窪田雅也からファウルで粘ったあと、一、二塁間を抜く二塁打を放ち、プレーでもチームを乗せる。

 直後、3番・三枝美樹の右前タイムリーで1点を先制すると、池谷公雄、山本博、小林秀樹も3連続長短打と打線がつながり、計4点を挙げた。

 さらに広瀬は、初回から右手の負傷を押して力投を続けていたエース・山本に代わって4回からリリーフすると、6回を3失点に抑え、12対5の勝利。投打にわたって、2年ぶり2度目の甲子園出場の立役者になった。

 試合前にどのようにして選手たちの緊張をほぐすか、これも監督の腕の見せどころと言えるだろう。

 1点もやれない重要局面で、急造投手をワンポイント起用する大胆采配を見せ、甲子園切符を手にしたのが、93年の育英だ。

 兵庫大会決勝の姫路工戦は、6回まで両チーム無得点と息詰まる攻防が続く。

 そんななか、押し気味に試合を進めていた姫路工は、7回1死から5番・池上裕司の三塁打で絶好の先制チャンス。次打者は左打ちの畑山英樹だった。

 先発・井上靖士、5回途中から松本貴博と両右腕の継投でしのいできた育英だったが、控え投手も含めて左腕が1人もいない。一打同点のピンチに、左の強打者を抑えられるかどうかで、勝敗が決まると言ってもいい場面だった。

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チームのピンチに指名されたプロ野球選手は?