北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 それにしても16兆円のコロナ対策交付金の行方を考えると、眠れない。自治体幹部の公用車の購入や、学校のトイレや体育館の改修、自治体指定のゴミ袋の配布など想像を絶する独創的な使い方が問題になったが、いまだに詳細は報告されていない。わかっているのは、コロナ対策予算が医療現場のエッセンシャルワーカーの人件費や、人材を増やすためには十分にあてられなかったことだ。病床やワクチンのための予算はあっても、人件費をけちる。モノを買ったり、モノを直したりなど、特定の業界に利益を生むことはするが、人への予算は最低限。そんな姿勢は、今の日本のリアルな姿なのだろう。金と命を平然とてんびんにかけるようなこの国の横顔を、コロナ禍になって何度も目撃してきた。

 岸田さんは「聞く力」をアピールして自民党総裁選を勝ち抜いた。でも、いったい、岸田首相はどんな声を聞いているのだろう。第7波をどう乗り切るつもりなのか、国の姿勢が明確に見えてこない。さらにそんななかで9月に安倍元首相の国葬を行うなんて、コロナ対策のお金で公用車を買っちゃうくらいに突飛で非常識な発想に感じる。中曽根元首相の内閣・自民党合同葬ですら、1億円近い税金が使われ、交通規制が行われ、自衛隊が動員され、かなりの“喪”モードを街に強いたことを考えれば、国葬レベルは簡単に想像できるだろう。フツーに国全体が“喪”モードになる。にぎやかな音は禁止される。ハレ系の振る舞い、イベントは自粛される(秋祭りの季節だというのに)。街にサイレンが流れるかもしれない。黙祷を促されるかもしれない。国葬が予定されている9月、コロナの死者は何人になっているだろう。

 そういえば、今年のジェンダーギャップ指数は146カ国中116位だった。先進国で最下位、という言い方がよくされるが、フツーにアジア(東南アジア・北東アジア)最下位である。一方の性が理不尽な状況にあるのを放っておけた社会に民主主義が育つはずもなければ、人権感覚も薄まっていくだろう。人口の半分の声を“聞かない”選択肢が、日本をじわじわと壊しているのかもしれない。男だけで決めて、男だけで金を回し、女を見下し続ける社会で私たちの声は聞かれない。そんな政治を本気で変えようともせずに、第7波に振り回される最中に国葬を決断する岸田さんの「聞く力」が、疑わしくなってきた。

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