でも、最終的に「大ボケ」に団長が選んだのはHIRO君だった。

 これは、かなりショックだった。全然納得できなかった。「なんで!?」ってね。

 団長には、一度呼び出されて二人で話をしたこともあった。納得のいってない態度をボクがかなり出していたんだろうね(笑)。

 HIRO君はあまりしゃべれるタイプじゃないから、できるだけセリフの少ない「大ボケ」のほうがいい。HIRO君には一発の破壊力ある。それに、単純に太っている人が面白いことをいうほうがお客さんにも伝わりやすい。

 たしか、理由はそんな感じだったと思う。

 舞台にたつと、当然、HIRO君がおいしいとこを持っていくし、目立つから、悔しい思いをしたことは何度もあった。「HIRO君はすごいね」って声を聞くたびに、腹もたった。

 誰かに相談することもしなかった。それを口に出しちゃうと、HIRO君に負けたことを自分が認めてしまうような気がしたからね。

 人生で、初めて挫折を味わったのは、あの瞬間だったかもしれない。

 ただ、今考えれば、その時に打ちのめされた自分がいたからこそ、成長できた部分もあった。

「ボクにもチャンスが回ってくるターンは絶対あるはず。だから、HIRO君にスポットがあたっている今のうちに、ボクは裏で、いろんなスキルを磨いておけばいい」

 いつしかそんな風に考えるようになったんだよね。

 例えば、安田大サーカスのツッコミって、基本的には団長の役割。でも団長だって、ネタ以外の部分のフリートークとかではボケる時もある。団長も気質はボケたい人だからね。そんな時に、団長にツッコむ人が必要になる。だから、団長は、ある時からボクにもツッコミを任せてくれるようになった。先輩芸人の中には、ボクがツッコミをすることに反対する人もいたんだけど、団長は自由にやらせてくれた。団長には、「間」が違うとかいろいろ怒られたりしたけど、回数をこなすたび、ツッコむことが楽しくなってきて、少しずつ自信もついてきた。今では、「クロちゃんっていじられた時の返しが早い」って褒められることも多くなった。いじりの返しって、いわゆるツッコミだからね。

 もちろん、他の人に比べ、ボクのツッコミやリアクションが特別にうまいって感じているわけじゃない。失敗することだって山ほどあるし(笑)。ただ、あの時の経験を経て、昔の自分とは違う、新しい自分になったっていう手応えははっきりとある。

 それまでのボクは、資質だけで戦っていたんだと思う。でも、それだけじゃ、いつかは絶対頭打ちになる。

 ボクは天才じゃないからね。だから、いろんな経験や努力は必要なんだなってことを初めて気づけたような気がするよ。

 HIRO君に抱いたライバル心があったから、今のボクがある。

 大げさじゃなく、そんな風に改めて思うしん。

(構成/AERA dot.編集部・岡本直也)

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