「ステージ上でのプレゼンテーションは私が入学した頃から必須条件となったのですが、21世紀の音楽家として演奏のみに限らず必要なスキルを身に着けてほしいという学校側の思惑があるのかもしれません。音楽家も自分をブランディングできなければいけない時代ですから、そうした点でもジュリアードは先駆けだったと思います」
リサイタルを終え、ついに迎えた修了式。ここで、ある賞の受賞者の発表があった。
「ジュリアードの修了式はリンカーン・センターで行われます。ハーバードの卒業式のような派手さはありませんが音楽院らしさにあふれていて、ジャズミュージシャンのウィントン・マルサリスさんのスピーチもあり、在学生のパフォーマンスもあり、盛りだくさんでした。実は、ジュリアードに最優秀賞の発表があることは当日まで知らなかったんです。式のプログラムに何かのアワードの受賞者発表があると書かれていて、他人事のように思っていたら、突然、名前を呼ばれてステージに上がり、賞を受けることに……。
賞の名前は“ウィリアム・シューマン・プライズ”で、音楽学部の最優秀賞。ウィリアム・シューマンさんはジュリアードの昔の学長で、作曲家としてだけでなく、音楽ビジネスを牽引したことでも功績のあった方。そうした背景もあるので、私が最優秀賞を受賞できたのは、教授陣が演奏を認めてくださっただけでなく、カルテットのツアーのために自主的にクラウドファンディングを募ったことや、オーケストラのコンサートマスターを務めてリーダーシップをとったことなど、演奏以外の部分も評価してくださったのかなと思います」
(構成/奥田高大)