全国高校野球選手権大会が甲子園で開催され、連日熱戦が繰り広げられている。高校野球には独特の魅力がある。緊張感が極限に達し普段は考えられないようなミスが起きることで「甲子園には魔物が棲んでいる」とも言われるが、甲子園の大舞台で潜在能力が引き出されて光り輝く選手もいる。2018年夏に強豪校を次々に倒して準優勝に導き、社会現象とも言われた「金農旋風」を巻き起こした金足農のエース・吉田輝星(現日本ハム)は典型的な例だろう。
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早実の荒木大輔、PL学園の桑田真澄、清原和博の「KKコンビ」は1年生から甲子園で活躍して強烈なインパクトを与えたが、この選手も1年夏の活躍は衝撃的だった。「バンビ坂本」こと東邦の坂本佳一だ。中学時代は野手だったが、高校進学後に肩の強さを見込まれて投手に転向。強豪校で1年生の時からエースとして活躍した。入部して3カ月後。夏の愛知県大会を勝ち抜くと甲子園へ。初戦となった2回戦・高松商戦で2失点完投勝利を飾り、黒沢尻工、熊本工と2試合麗連続完封。準決勝の優勝候補・大鉄戦も3失点完投勝利を飾った。
華奢な体と細長い首で快投を続ける姿についた愛称が「バンビ」。快速球とスライダーで抑え込み、甲子園の主役となった。決勝・東洋大姫路戦も9回まで1失点の好投だったが、延長10回に力尽きて3失点。準優勝に終わったが、その活躍ぶりは見事だった。しかし、甲子園出場は1年夏が最初で最後となった。法政大に進学したが4年間でリーグ戦登板なしに終わり、社会人野球・日本鋼管で2年間の現役生活で野球人生に終止符をつけた。
PL学園・清原の強力なライバルとして立ちはだかったのは、宇部商・藤井進だった。3年夏に春夏連続で甲子園出場。夏は3回戦の東農大二戦で2本塁打をマークすると、鹿児島商工戦、東海大甲府(山梨)戦と3試合連続本塁打。大会4本塁打、14打点は当時の大会新記録だった。決勝戦・PL学園でサヨナラ負けを喫し、清原が2本塁打を放ち通算5本塁打で記録を塗り替えられたが、藤井もプロのスカウトからの評価は高かった。当時取材したスポーツ紙記者はこう振り返る。
「謙虚でおとなしい選手だったが、打撃は凄かった。背番号が投手から見えるほどクローズドスタンスから独特のスイングで広角にホームランを飛ばす。変化球を打つ技術も高かった。体は細かったけど、ボールを遠くへ飛ばすコツを完全につかんでいたね。プロで活躍する姿を見たかった」