AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。渡辺明名人、「初代女流名人」の蛸島彰子女流六段、「永世七冠」の羽生善治九段らに続く24人目は、「史上最年少名人」の谷川浩司十七世名人です。発売中のAERA 2023年3月13日号に掲載したインタビューのテーマは「印象に残る対局」。
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天才は天才を知る。谷川浩司十七世名人が藤井聡太竜王(20)を縦横に語る著書『藤井聡太はどこまで強くなるのか』(講談社+α新書、990円)が出版された。
「私と藤井さんにはいくつか重なる点がある」
谷川がそう記したように、将棋史を代表する両天才には共通点がある。
「ともに中学2年生で四段に昇段」
「私は19歳11カ月、藤井さんは19歳7カ月でA級に昇級」
「私はA級に昇級後すぐに名人挑戦者となり、史上最年少名人になった。現時点ではまだ趨勢はわからないが、藤井さんもまた同じ道を歩みつつある」(同書)
谷川の残した21歳2カ月という最年少名人記録を、藤井が更新できるのか。それは現代将棋界における主要なトピックであり続けた。藤井がB級1組に在籍していた2年近く前、谷川は次のように語っていた。
「割合早くに可能性がなくなってしまうのも寂しい。でも藤井さんがA級に上がり、そこで勝ち進む状況になると、複雑な心境になるだろうな、とは思いますね」
「A級に上がったとしても、当然メンバーは手厚い。藤井さんといえど、そう簡単ではないと思います」(AERA2021年7月5日号)
藤井が1年でも停滞すれば、谷川の記録は抜けない。しかし期待に違わずA級に昇級し、そこでも白星を重ね続けてきた。最終戦は3月2日。その結果が出る前に、改めて谷川に心境を尋ねた。
「藤井さんは常に進化を続けている。逆にもう、藤井さんに破られるのであれば、それは大変光栄なことだと思うようになりました。私は最初に獲得したタイトルが名人でした。藤井さんは現在五冠。また(棋王を獲得して六冠に)増えるかもしれませんね。誰が見ても第一人者という人が史上最年少名人の記録を持つほうがふさわしい。そういう気さえしてきているんです」
(構成/ライター・松本博文)
※発売中のAERA2023年3月13日号では、羽生善治九段の挑戦を受けている王将戦での戦いぶりや今後の可能性など最新の「藤井聡太論」のほか、著書に書かれている、オールドファンにとっても新しい発見となる谷川自身のエピソードについても話している。