Aさん:大腸がん、あ、そうですか。検査も結構大変なんですよね。

医師:肛門から内視鏡を入れて、大腸をくまなく調べるので、まあ、大変と言えば大変ですかね。検査の前にたくさんの水と下剤で腸の中をきれいにしないといけないのがちょっと……。でも、今は検査の技術も進んでいますからね。(パソコンのキーボードでカルテに何やら書き込みながら)では、紹介状書いておきますので明日のお昼ごろ取りに来てください。

Aさん:あ……、は、はい。分かりました……(まあ、いいか。先生も忙しそうだし、待っている人もたくさんいるし、これ以上言いにくいな。検査を受けに行くしかないか……)。

【このときの医師の気持ち】

大腸の症状なのに、なぜ専門外である自分のところに来たのだろう。最初から消化器専門医のいる病院に行けばいいのに、よくわかっていない人なんだな。あまりこの患者とかかわっていても仕方がないので、検査ができる病院を紹介して、そちらに行ってもらえばいいだろう。紹介状を作成することを伝え、早く診察を切り上げて次の患者さんを診よう。

【解説】

 これは、コミュニケーションがうまくいかなかったケースです。Aさんは、かかりつけ医が消化器の専門医ではないことは知っていましたが、長年自分を診てくれ、相談にのってくれている医師だからこそ、専門外のことでも適切なアドバイスがもらえるのではないかと思い受診しました。一方で、できれば大腸の専門医に話を聞いてみたいという気持ちもあり、以前一度行ったことのある消化器専門医にセカンドオピニオンを受けることを提案したいという気持ちもありました。ただ、「別の医師の話を聞きたい」と言って気を悪くされたらどうしようという不安もありました。そして、忙しそうな雰囲気や自分の中での迷いもあり、結局、自分の気持ちをほとんど話せず診察を終えてしまいました。それにより、医師にもAさんの気持ちが伝わらず、Aさん自身にも不安や迷いが残ったままに……。

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