病院に行き外来で主治医にいろいろ聞こうと思っていても、短い診療時間でうまく質問できなかったり、主治医の言葉がわからないまま終わってしまったりしたことはありませんか。短い診療時間だからこそ、患者にもコミュニケーション力が求められます。それが最終的に納得いく治療を受けることや、治療効果にも影響します。今回は、患者の医師とのやりとりの失敗例、成功例を挙げ、具体的にどこが悪く、どこが良いのかを紹介します。ヘルスコミュニケーション学関連学会機構副理事長の宮原哲氏(西南学院大学外国語学部教授)が語ります。
≪医療監修/京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野教授・中山健夫医師≫
* * *
「よくある例〔失敗例〕:エピソード1」と、「成功例:エピソード2」を順番に紹介します。
【患者の背景と現状】
都内在住のAさん(57歳)は、2年前の職場の定期健康診断でやや血圧が高いことが分かり、それ以来近くのクリニックで薬を処方してもらっています。医師は循環器内科が専門で、食事や運動などと血圧の関係を分かりやすく説明してくれ、二人は医師と患者として良好な関係を築けています。
ところが、つい最近受けた健診で「大腸潜血の陽性反応が出た」という結果が届きました。こんなことは初めてです。消化器専門のクリニックにはもう何年も行っていないので、まずは、いつものクリニックに行くことにしました。
いつものように混雑した待合室で待っているとAさんの名前が呼ばれ、診察室に入ります。
■エピソード1
医師:今日はどうしましたか。血圧のお薬はまだありますよね。
Aさん:あ、はい。あのう、実は定期健診で大腸潜血とかで、かかりつけの先生に相談するようにと……。
医師:そうでしたか。
Aさん:どうすればいいでしょうか。
医師:ここでは検査できないので、国立医療センターの大腸がんの専門の先生に紹介状を書きます。一度大腸ファイバー検査をしてもらいましょう。