元電通専務で五輪組織委の元理事の高橋治之容疑者
元電通専務で五輪組織委の元理事の高橋治之容疑者

「不正などない」――。東京五輪・パラリンピックのスポンサー選定にからみ、受託収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕された高橋治之容疑者(78)は逮捕前、AERAdot.の取材にそう答えていた。大会組織委員会の理事を務め、スポーツビジネス界で知らない人はいないという存在だった。世界最高峰のスポーツの祭典で起きた贈収賄事件。捜査はどこまで進むのか。

 高橋容疑者の逮捕容疑は、2017年10月から21年6月までに、紳士服大手「AOKIホールディングス(HD)」側からオフィシャルサポーター契約、公式ライセンス商品などで有利になるようにとの請託を受け、計5100万円の賄賂を受領したというもの。

 東京地検特捜部は、高橋容疑者に賄賂を贈ったとされるAOKIHDの創業者の青木拡憲前会長、青木宝久前副会長、上田雄久専務執行役員の3容疑者を贈賄容疑で8月17日に逮捕した。

 高橋容疑者は、自身が経営しているコンサルタント会社「コモンズ」と、青木前会長らの資産管理会社との間で、月100万円のコンサルタント料を基準とした顧問契約を結んでおり、支払われた総額の計5100万円がすべて賄賂とみなされた。

 高橋容疑者は、大手広告会社「電通」元専務で、14年6月から組織委理事に就任。理事は「みなし公務員」と規定され、職務に関して金品を受け取ると刑法の収賄に問われる。

「家宅捜索が入っていたとはいえ、高橋さんが逮捕されるなんて衝撃です」と話すのは、現役の電通社員のAさんだ。高橋容疑者のもとで仕事をしたことがあるというAさんは、

「世界のスポーツビジネスで、電通の高橋といえば誰もが知っている。高橋さんのもとで仕事をしたというだけで『おお、すごいじゃいないか』となるくらいです。電通の社内では“神様”のような存在。彼との仕事では、私たちから相談などはできず、ただ指示を仰いで言われた通りにやるだけ。自分では何も判断しない、というやり方でした。スポンサーからの要望を伝えた時も『俺の通りにやればいいからさっさとしろ。わかってんのか』と怒鳴られました。わかりやすく言えば独裁です。組織委に出向した同僚がいますが、『高橋さんが関連している案件だと誰も異を唱えることができない。電通でも組織委でも同じ』と言っていました」

 と打ち明ける。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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逮捕前の高橋容疑者「便宜など図れるわけがない」