
この同じ力士と延々1時間とか1時間半やる三番稽古がキツかったけど、一番キツイのはやっぱり“かわいがり”だね。これは稽古じゃないか(笑)。周りで見ている関取衆から「この野郎!」「負けやがって!」「のぼせるな!」と怒声がひっきりなしに飛び交う。コーチ役で部屋についている親方も「この野郎、力抜きやがって!」と言っては、バット、竹刀、ほうきとか、棒状のものでとにかく殴る。たぶん、フランスパンがあったらそれでも殴っていたと思うよ(笑)。さすがに相撲部屋にフランスパンは無かったけど。
そんな二所ノ関部屋の中でも特に稽古熱心だったのは、関脇までいった麒麟児だ。彼は俺の弟弟子でからだも小さくてね。いつもコツコツ稽古をしていた。そんな一生懸命な彼を見て俺たちは「なに無駄なことを頑張っているんだ」なんてからかっていたけど、あれよあれよと番付が上がって関脇になったからね。いやあ、稽古は嘘をつかいないよ。
これはよく思うんだが、相撲に入ったとき俺は周りから「横綱、大関になれる」と言われ、俺を相撲に誘った後援者の親戚縁者に東京でステーキをおごってもらったりとちやほやされていて、13歳にして有頂天になっていたんだ。だから大鵬さんのいる二所ノ関部屋に「入ってやった」という思いがあったんだよね。相撲からプロレスに転向したときのように一生懸命練習をしていたら、俺の相撲人生ももっと変わったものになっていたんだろうなと、今になってつくづく思うよ……。
プロレスに転向してからは、それまでしていなかったウエイトトレーニングもするようになった。ショックだったのは、チャック・ウィルソンがコーチをしている「クラーク・ハッチ」というジムで初めてベンチプレスをやったとき、60キロが上がらなかったことだ! チャックはいいからだをしているし、相撲も好きで俺のことも知っていたから余計に悔しかったね。相撲とは筋肉のつけ方が違うんだとつくづく実感したよ。