朝日ジャーナル1986年12月5日号
朝日ジャーナル1986年12月5日号
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 安倍晋三元首相銃撃事件を機に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政界の癒着が次々と明るみに出ている。そもそも旧統一教会が話題に上ったのは1980年代。印鑑や壺(つぼ)などを高額な値段で売りつける「霊感商法」が社会問題となった。そのきっかけとなったのが1986年に「朝日ジャーナル」が始めた霊感商法追及キャンペーンだった。「因緑」や「霊能」を説いて印鑑や壺、多宝塔を売っていた体験を持つ人を取材したが、どの人も世界基督教統一神霊協会(統一教会)のかつての会員や信者だった、と自らを語った。当時、問題視された旧統一教会による霊感商法とは、どのようなものだったのか――。ここでは、朝日ジャーナル1986年12月5日号に掲載された記事を紹介する。

※以下に記載された年齢、所属、肩書きなどは、すべて当時のまま

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 悪運を払ってやると称して壺、多宝塔を売りつける霊感商法の被害がふえている。朝日ジャーナルの調べでは、ここ2年半に1万件、40億円の被害が出た。この数字は82年に国民生活センターが、6年間の被害としてまとめた2600件、17億円をはるかに上回っている。とくに神奈川県の被害額11億円には驚くほかない。被害者たちは「原理運動系の販売員に騙された」と訴えている。県や市による苦情処理にも同一グループと思われる会社が次々引っぱり出されている。

【事例】
殉職の夫はああ地獄で
30倍の苦しみといわれ

 北九州市の未亡人B子さん(60)が3700万円を支払った経緯も、A子さん(前回配信の記事参照)そっくりである。この金額は今回の全国調査であがってきた個人の被害金額としては最高だった。

 B子さんにとってこたえたのは、「お宅は絶家の家系です」といわれたことだった。息子の命が危ないといわれた。それは本当かもしれないと、彼女は思った。1977年3月、同市の公務員5人が火事で殉職した。B子さんの夫もその1人だった。夫の非業の最期が、息子の姿に重なってみえた。もうひとつ、彼女が震えあがったことがある。「焼け死んだ人は、霊界で痛みが30倍になる」と聞かされたことだ。

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「お宅は絶家の相です…」